喋るマネキン

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 マネキンは表情を変えない。変えられない。だからシンジロウがどんなに抑揚つけて喋ろうと、口を閉じたままのイケメンはイケメンであって、聞く者には常に違和感がついてくる。 「今日はね、ホントはじいちゃんとこうして話すこと出来なかったんだ。だけど午前中キャンセルが出たってメールもらってさ、急きょマネキンを借りること出来たんだ」 「メール? 何だそりゃ。でもラッキーなことだ。マサシ、お父さんお母さんみんな元気か」 「元気だよ。ってか、あの世から見てんじゃないの?」 「そんな都合よく見られねぇよ。俺みたいにこっちの世界に来てまだ数年の若輩者はよ、後ろの方で立ち見だよッ。  ほれ、コンサートなんかと一緒でよ、前の方のいい席は、何十年何百年も昔に亡くなった古株の連中が陣取っててな。俺なんか下っ端はウンと後ろだよ。  だけどな、お盆とかお彼岸で線香あげてお前たちが呼んでくれると、それに(いざな)われて順番関係なしにやって来られるんだ」  ふぅん……と三人はイケメンを見ながら頷いた。  
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