始めよう

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僕と隼人は電車に揺られながら車窓から過ぎ去ってゆく景色を眺めていた。 ガチャガチャと賑やかしい看板やビルがどんどん後ろに過ぎ去っていき、やがて周りは住宅街に変わっていった。 「降りよう」 隼人の家の最寄駅に着くと、2人手を繋いで降り立った。 そんなに口数が多くない隼人が何故か無言で何か焦ったように歩みを進めるので、僕もつられて無言で黙々と隼人の家に向かった。 隼人の部屋に着くと、隼人は家の鍵をガチャガチャする。 何故かうまくいかないとようで、僕は隣から手を伸ばしてガチャリと鍵を開けてあげた。 「悪い・・・ちょっと余裕なくて」 「?うん、べつにいいよ」 隼人は何か焦っている様子でそんな余裕のない隼人を見たのが初めてだったので僕は少し驚いた。 部屋に入ると隼人は手を洗ってからまっすぐキッチンに向かっていき、電気ケトルに水を注ぐとスイッチを入れた。 僕も手を洗って部屋に入ると、ベッドを背当てにしてちょこんと座った。 「なあ、寝ようか」 隼人が突然そんな事を言う。 (もしかして今日ずっと眠かった?だとしたら無理に連れ回してわるかったな) 僕は申し訳なく思いながら答えた。 「隼人眠たかったの気がつかなくてごめんね、僕は適当にテレビ見たりして過ごすから眠っていいよ」 そう言うと隼人は酷く驚いた顔をしてヘナヘナと座り込んだ。 体育座りをして顔を埋めて僕に背を向ける。 「どうしたの?お腹でも痛い?」 そう問いかけるが、隼人は深いため息をもらして言った。 「晃が無垢なの忘れてたよ。うん。今回のことは俺が悪い。勘違いしてた俺が悪い」 そう言ってフラフラと電気ケトルの方に歩いて行って、買ってきたマグカップを洗い、コーヒーを注いでくれた。
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