1幕 新チーム

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 1年生を交えた5対5の練習開始。  全体を見ながら、俺はどうやって展開するか、頭の中で組み立てていく。この状況は何処もパスが出しづらいな。  あまり視線を動かさないと、逆に読まれてしまう。拓斗を惑わすために、パスを出すと視線を送ってみたり、ゴールを見てシュートをするとフェイクをした。  なかなかディフェンスが厳しいか。その場でドリブルをして、ゴール下まで切り込んでいくと判断した。左側からドライブすると灯に合図する。  灯は目で了解と答えると、拓斗にスクリーンをかけに行き、俺がドライブしやすいように開いた。  ドライブはドリブルで、ゴール下まで切り込んでいくこと。途中でカットされたり、パスをしたりしても、ドリブルでゴールまで向かったときにはドライブと呼ぶ。 スクリーンは、プレイしやすいように、ボールを持っている選手のディフェンスを止めに行き、一時的に動きを封じて、スペースを作ることだ。  スペースが空き、俺はゴール下までドライブしていく。このまま、シュートもできる。ゴールにボールを置いてくるように入れるレインアップシュートで、シュートを決めた。  俺が動きやすいように、俺をマークしていた拓斗に灯がスクリーンをかけにいく。空いたスペースを使って、俺がプレイをする。この一連の動作をピックアンドロールという。  灯がスクリーンをかけに行くことによって、灯をマークしている風斗もついてくる。すると、2対2となる。俺が風斗と拓斗を巻き込んで抜いていく形だ。  これは一つのパターンだけど、ほぼ、セットプレイの時は、スクリーンを使わないと、シュートまでいけない。  ディフェンスを止めて、オフェンス側がやりやすいようにスペースを空けるためには、スクリーンはかなり重要な役割を持つ。  普段、プレイを見ているときには、スピードが速いので、スクリーンをしたのか、わからない時もある。 「動きが読めなかった。今のは視線に惑わされた」  拓斗は悔しそうな顔をしている。  バスケはフェイクをすることで成り立つスポーツだ。フェイクをするには、動作だけではなく視線も重大だ。視線は読まれやすいからだ。  通常は騙すことをしてはいけないが、バスケのときだけは、視線で惑わして騙すことは成功だ。 「借りは返すよ」  拓斗の心に火がついたみたいだ。次は1、2年生のオフェンスだ。さて、拓斗はどんな攻撃をしてくるか。また、1年生のプレイを見るのは初めてだからワクワクする。  拓斗にボールを渡して、1、2年生の攻撃が始まる。  拓斗はボールを持ったまま、全体をサッと見渡す。風斗にパスが出せると判断し、風斗に託した。  風斗は、まさか自分にボールがくるとは思っていなかったようで、少し、ビビりながらもパスを受け取る。灯はそんな様子を見て風斗に声をかけた。 「先輩、後輩は関係ない。遠慮なく来い」  風斗はドライブしようと、ドリブルで灯を抜いていった。でも、シュートまではいけそうにない。そこにノーマークになっている智樹がいる。すぐに智樹にパスをする。  智樹はスリーポイントを放とうとしたがやめた。達也が智樹をしっかりマークしている。  達也はもう智樹がスリーポイントを打つとしか考えていなかったらしく、気がついたときには、快にパスが渡っていた。 「しまった!」  達也は智樹の思うままにプレイされて、やられたという顔をした。  快は迷わず、ゴール下のジャンプシュートを決めようと、手からボールが離れた瞬間。  慧は快の前に立ちはだかった。でも、足はガタガタと震えている。これではディフェンスについても快を止めることはできない状態だ。  それでも、慧は深く息を吐き、心を落ち着かせると、快のシュートを止めようとジャンプした。  バシッ  快のシュートはブロックされて、ボールが落ちる。そのボールを追っていったのは。  震える足でボールに向かっていき、取ろうとしたのは慧だった。だけど、間に合わず、ボールはラインを割った。  ブロックしたのも慧、落ちたボールを拾いに行こうとしたのも慧だった。慧は自分でもビックリした。着地した足はまだ震えている。それでも、ブロックも、ボールを追うこともできた。 「あっ……」 「ナイスブロック! 慧!」  慧自身は信じられなかったようだが、俺はすぐに慧のところに駆け寄って、声をかけた。 「……慧先輩……?」  風斗は初めて慧のプレイを見たはずなのに、すぐに普段のプレイではないことに気がついて、何かあったんだと察した。だから、慧のことを心配していた。 「慧でいいよ。先輩、後輩という関係好きじゃないから」  慧はにっこりと笑ってそう言うと、オフェンスの準備に入る。 「でも……明らかに何かあった感じがするから……」  風斗は控えめに、でも、本当は大丈夫? と声をかけたかったに違いない。 「心配してくれてありがとうな」  慧は風斗に笑顔を見せていたが、イップスのことを言わないといけないと思ったようで覚悟を決めていた。
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