1幕 新チーム

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 高宮コーチに足指のことについて、説明を受けているとき、1年生がひとり、ずっと見学していたことに気づく。  高宮コーチが1年生を招き入れると、ちょっと試してみようと言われて、1年生も体験することになった。 「カーフレイズは知ってるな」  高宮コーチの問いに、はいと大きな声で返事をしたのは智樹だ。2年生。  俺もカーフレイズは知ってる。踵上げだ。踵の上げ下げをするトレーニング。ふくらはぎに効くんだよな。 「いつも上げ下げして、20回3セットっていうやり方をしてるけど、あまりキープしたことないだろ?」  高宮コーチの言う通り、キープはあまりしないかもしれない。 「爪先立ちでキープしてみよう。意外とバランス崩れると思うよ」  俺たちは一斉にやり始めた。  高宮コーチが1年生に対してもやってみてと促す。  あれ? 意外とグラグラしてる。マジで体幹弱いじゃん。  俺はなんとかグラグラしないように踏ん張ろうとしたが、やっぱりグラグラしている。  見学に来た1年生は高宮コーチに促されて、試しにやってみる。意外と体幹が強いのか、バランスを崩しても、しっかりと戻せていた。 「君、名前は?」  高宮コーチが1年生に聞くと、1年生は少し緊張があるのか、小さな声で答えた。 「谷山風斗(たにやまふうと)……」  谷山風斗っていうのか。ちょっと控えめな感じだな。 「そっか、風斗、体幹強いな」  高宮コーチが褒めている。  やっぱり体幹が強いんだ。控えめだけどバスケをやらせたら、意外と凄いのかも。 「ドリブルしてみるか」  高宮コーチは風斗にボールを渡す。  風斗は少し戸惑っていたが、高宮コーチがやっていいよと言ったので、軽くドリブルをした。  風斗はバスケ初心者じゃないな。手にボールが吸い付いているかのように、ドリブルしている。初心者ならボールは手から離れて、叩くようにしてドリブルをすることが多い。  だけど、風斗は手を軽く丸め、ボールを回すようにドリブルしている。それも、ちゃんと速さのリズムを変えることができる。その切替はスムーズだ。 「シュートもして良いぞ」  高宮コーチに言われて、風斗はドリブルからシュートまで持ち込む。ただ、ゴール下まで来た瞬間、高宮コーチの壁がシュートをさせないようにしていた。  あれ? 聞いてないぞ。高宮コーチ、ディフェンスするって言っていたか。ちょっと意地悪したなぁ。  さすがに高宮コーチがディフェンスをしてくると思わなかったか、風斗も一瞬は躊躇った。でも、判断は早い。  空中でフェイクをしてシュートをした。そのシュートは見事に決まる。ダブルクラッチ。  完全にバスケやってたな。ダブルクラッチなんてできるもんじゃないからな。風太は簡単にダブルクラッチをした。 「良い感じだったぞ。バスケ一緒にやろう。待ってる」  高宮コーチが言うと、風斗は嬉しそうにしていた。きっと、風斗はバスケをしたいんだな。 「良いものを持ってるな。風斗、もっと自分の体をディフェンスに近づけると、よりディフェンスがやりにくくなるし、ファウルになりやすい。ファウルを誘うことができるぞ」  高宮コーチは、風斗の反応を見てにっこりと笑った。  風斗が見学に来て、一緒に練習をしてこの日は終わった。バスケ部に来てくれるかな。一緒にやってみたいな。  バスケ部全員、風斗を待ってるからな。ぜひ、一緒に目指そう。インターハイ、ウィンターカップの優勝を。
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