2nd Sign : 色欲のダークプリンセス

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「お! 面白れぇ話が聞けそうじゃん。話が面白ければそれをショバ代にしてやるよ」  チビがまたしゃしゃり出た。私はこれまでの経緯を大学生のお兄さんたちの情報を徹底的に省きながら話した。 「いやおもしれーおもしれー。ショバ代はタダでいいよ。だがな」  その場の全員がズボンを下ろした。 「売女(バイタ)のビッチなら気にするコトなんかなんにもねーや! 俺たちも楽しませろよ!」  私はその場で全員に好き放題に犯された。ピル、飲み続けててよかったな。 「あのさ、前準備もナシに後ろ使ったりなんかしたらこうなるに決まってんじゃん!」  私は突っ込まれて括約筋が開ききった場所から内容物をぶちまけていた。 「そりゃお客さんにも追加料金取ったうえで使わせてたけど、何時間もまえから固形物食べないようにしたりノズル外したシャワーで洗ったりしないといけないから予約のみでやってたの!」  ちょっとは後先を考えろよクソガキ共が、わからないことは人の話をちゃんと聞けと態度に出すと、悪ガキ共はしおらしくなりながら部屋を掃除してた。 「勝手だけど風呂場借りるよ! もう、女の子になんて思いをさせるんだ」  私は替えの肌着を持って風呂場に行った。 「何? 浴室の床なら汚れちゃってるけどちゃんと流しとくよ?」  私がシャワーを浴びてたら、浴室の扉をノックされた。 「さっきは悪かったな。ついやり過ぎちまった」  リーダー格の男だった。 「別に、男ってこんなもんじゃん。で、何?」 「あのさ。お前、帰る家が無いんだろ? ここ、ねぐらにしていいぜ? 母ちゃんも代わる代わる男連れてくるし、同じコトしといてガタガタうるせーことは言わせねーよ」  助かる話だけど、どういう風の吹き回しだろ。 「おまえ、人間がおもしれーよ。みんな毎日ヒマしててさ、おもしれー奴は宝みてーなもんだから」  私は身体と床を流し終えると、浴室から出て男のまえで身体を拭いて服を着た。 「それなら、ついでにひとつお願いがあるんだけど」 「内容次第だな」  男はニヤリと笑っていた。 「スマホ、使わせて。パパ活再開したいから。何割かピンハネしてもいいよ」  男は笑みを浮かべたままで頷いた。 「いいぜ。おまえ、やっぱ面白いよ」  白河の 清きに魚も 棲みかねて もとの濁りの 田沼恋しき  私には、これくらい濁った世界がちょうどいい。  ◇◆◇ 「お母さん、ただいまー!」  早いもので、あれから2年ほどの月日が流れた。私はリーダー格の男の家でお母さんとも打ち解けて、家族ぐるみの付き合いしながら悪ガキ共と遊ぶ日々。  カラオケにゲーセンにと、まさか家出してから歳相応の遊びかたをすることになるとは私は思いもしなかった。  お母さんとは、仕事の話で盛り上がった。  お母さんはテレクラで荒稼ぎしてそのとき誰が父親かわからない子どもをこさえて高校中退した過去があって、いまはデリヘル嬢をしてるんだって。  私も将来はそうなっちゃうのかな。 「悪いけど、ちょっと話があるんだ」  リーダーが、かしこまった顔をしていた。 「え? 何?」 「俺、高校に無事受かったよ」 「へぇ、よかったじゃん」  私がパパ活で稼いだお金は、最初提示したピンハネ料を家に入れることになってた。彼のお母さんは手をつけず、息子の学費に積み立ててた。 「俺はな。だが、仲間には高校を受験すらできなかった奴も居る」  チビの家は、ギャンブルの借金で首が回らない状態だった。自分から金をせびることはなかったが、遊びに行ったときお金を肩代わりすることはたびたびあった。 「おまえだって、会ったときからずいぶん変わった。背も胸もでかくなった」  それは自分でもびっくりしてた。初対面のとき私の背丈はチビと同じくらいだったのに、今は私が見下ろしてる。  仕事でも、お客さんに嫌な顔をされることが多くなったからアプリのアカウントを作り直してアイコンを女の子向けのキャラクターから胸の谷間のアップの自撮りに変えたもんね。 「あいつら、俺に遠慮して去年なんかイブは俺以外で集まってた。おまえ、仕事だったのにな」 「だって、イブはお客さん(パパたち)みんなお小遣いを奮発するもん。かきいれ時にサボるわけにはいかないよ」  そもそもそんな感情が無い。確かに私は何度もこいつと肌を合わせた。でもそれは、他の悪ガキ共ともだった。 「おまえと俺らが出会ったとき、俺らは子供だったから気付けなかった。おまえにとっては今も昔も俺ら(ガキ共)とじゃれてるだけだっただろうが、俺らはどんどん変わっていった。意識して、張り合って、序列ができて、どんぐりの背比べの一等賞になっちまった俺は皆から距離を取られていった。  そして俺も含めた皆が半端に大人になって、おまえと比べて自分たちがどれだけ幼稚かわかるようになっちまった」  リーダーは、タバコをくわえて火をつけた。 「俺らはおまえと出会ったときは、ただ友達が増えただけだと思ってた。でも現実は違った。おまえは女で、俺らは男。自分たちが大人になれば大人になるほどどうしてもそれは意識しちまう。ただ猿みたいに腰振って気持ちよくなるだけの遊びだったころが懐かしいぜ」  リーダーは吸い終えたタバコを空き缶に捨てた。 「悪いが、もう出てってくれないか? せめて卒業式くらいは仲間とわだかまらずに迎えたいんだ」 「そっか。今までありがと。アプリ、消しといてね」  私はリーダーに右手を差し出し握手を交わして別れを告げた。 「茜ちゃん、ちょっと待ちなさい」  私はリーダーのお母さんに呼び止められた。 「これ、あなたからもらったぶん。中身抜いたら処分してね」  私は預金通帳と暗証番号を書いたメモを渡された。 「え……。浜崎さん、これ、いいんですか?」 「ふふ、よそよそしくなっちゃったね。いいもなにも、あなたがどうしてもって言うから一応は受け取ったけど、これはあなたの稼いだお金でしょ?」 「ありがとうございます、助かります。今までお世話になりました」  私はリーダーのお母さんに深々と頭を下げて、巣立つ若鳥のような気分でその家の玄関を出た。 「『おまえだって、会ったときからずいぶん変わった』かー」  道中のディスカウントストアで買ったキャリーバッグを引きずりながら、私の足は歓楽街へと進んでいった。以前と違って進める足に明確な目的意識があった。 「でも子供に見てもらえない、子供として扱ってもらえないってことは逆に考えたらワンチャンあるってことだよね」  歓楽街の公園までたどり着いた私は、風俗情報誌の求人に公衆電話で片っ端から電話をかけた。
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