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「やめない。あ、そうそう。もし力ずくで引き剥がそうとして私がケガなんかしちゃったら、お兄さんは未成年暴行傷害だからね」
邪魔だから、ベルトを緩めて衣服をまとめてずり下げた。
「ふざけんな! 調子に乗るのもいい加減にしろ!」
私は一気に責め立てた。5分も経たずに果てちゃった。
「ふぅ……。お兄さん、これであのお兄さんのことを詰められなくなっちゃったね」
私は口に出されたモノを、流しに向かって吐き捨てた。その間髭の男は、バツが悪そうな顔で衣服を着直してた。
「何がしたいんだよ」
さも私がロリコン以外に魅力を感じてもらえないかのようなコトを言われたから、ちょっと腹が立っちゃった。
「男って、出すモノ出したら落ち着くじゃん。お兄さんも、これでガラの悪い態度と口調を抑えてくれるかなって」
私は部屋主のほうのお兄さんに視線を向けた。
「お兄さんも、一回みんなで落ち着いて話そ。私、お兄さんにもこのお兄さんにも悪いようにはしたくないから。ホラ、こっち座って」
私たちは、ちゃぶ台を中心に囲うように座った。
「それじゃ、ここまでの流れをまとめるよ。まず、お兄さんの通う大学にお兄さんに想いを寄せる女が居た。髭のお兄さんは、その人に気を遣ってお兄さんとの仲人になろうとした。合ってる?」
「ああ、そんなところだ」
髭の男はあぐらをかいて頷いた。
「で、その際にイジりが過ぎてそれがお兄さんには不愉快過ぎた。だからお兄さんは抜け出した。そうだったよね?」
「……。だよ。気付かなかったし」
部屋主のお兄さんは頷いて答えた。
「そのおかげで私は助かったんだけどね。いつありつけるかわからなかった、シャワーとベッドは最高だったよ。ありがとう」
私は部屋主のお兄さんに視線を送った。
「話を戻すね。その件は、どっちにも非がある話だと思うんだよね」
「あ?」
髭のお兄さんに凄まれた。
「そこだよ。お兄さんは、他人への態度が高圧的過ぎるんだよ。『ナメられたくない』って、ナメられることにビビり過ぎてる。だからガラが悪い態度を取るし、恩を売るときイジりが過ぎちゃう。
それって、印象を悪くして損を買うだけだからやめたほうがいいよ」
髭のお兄さんはしゅんとなった。
「部屋主のお兄さんも。そうは言っても人間ってなんだかんだそんなもんなんだから、そこは察してあげないと。こんなこと言ってる私だって、股開いて筆下ろししたりしゃぶって抜いたりしてあげた精神的優位があるからこうして落ち着いて話せてるんだし。
冷静さを保ちながら他人と接してその真意を汲み取れないと、社会に出て苦労するよ」
お兄さんは何度も頷いてた。
「なぁ、お嬢ちゃん。オメー、いくつよ」
「聞かないほうがいいよ。『推定年齢18歳』ってことにしといて。私のほうも、お兄さんたちの名前を把握しないようにしてるじゃん? 訴えたりできないように」
髭のお兄さんは手を叩いて笑っていた。
「かぁ〜、こいつはヤベーわ。なぁ、俺たちこんな年端もいかない女の子に諭されちまってるよ。なぁ?」
「手に負えなくて困ってるよ」
うん、私もそろそろ潮時かなって思ってる。
「さてと。私はそろそろ失礼しようかな。バイバイお兄さん、いろいろありがとね」
「いいのか?」
部屋主のお兄さんに問いかけられた。
「いいよ。お兄さんたちの生きてる世界は、小綺麗過ぎてこれ以上関わりきれない」
「そっか。最後にシャワーくらい浴びてったら? 次いつになるかわからないだろ?」
お兄さんに、名残惜しそうな顔で聞かれた。
「そうだね。それじゃ、お言葉に甘えて遠慮なく使わせてもらうね」
私は満足するまでシャワーを浴びて、お兄さんの部屋を出た。お姉ちゃんも、もしあの事故が無かったらお兄さんみたいな人生を送ることができたのかな。
「そこのカワイイ仔猫ちゃん、ココって俺らのシマなんだよね」
声の主は、同い年くらいの悪ガキだった。私は声の幼さと言葉の古さのグロテスクなハーモニーに思わず笑いがこみ上げてきた。Vシネマの観過ぎだよ。
「あらごめんなさいねハンサムさん、家が無いから許してよ」
行くアテも無く歩く日々、夜はなるべく立ち止まらずに歩き続けながら陽が昇ったら公園で寝る生活が続いた。ちょっと疲れてひと休みしたらこれなんだよね。
「どうしてもってんなら、ショバ代くらい払えよな」
「場所代もなにも、道路ってみんなの物でしょ?」
悪ガキごときが何言ってんだと、目と表情で私は答えた。
「あ? ナメてんのか? 攫っちまうぞてめー!」
「いいよ。ひとりずつがいい? それとも、みんなまとめてがいい?」
囲んでいた全員の目が泳いだ。なんにも言葉の意味すら考えてなかったみたい。
「お前たち、何をしてるんだ!」
パトカーが横に停まり、窓を開けた。悪ガキ共はパニクっていた。
「おまわりさんすみません! 道に迷っちゃってこの人たちに案内してもらってたんです!」
「……。もう夜も遅いから、子供は早く帰って寝なさい」
「はい! お騒がせしました!」
おまわりさんが窓を閉めると、パトカーはその場から去っていった。危なかった、もし任意同行させられてたら私が自宅に連れ戻されてた。
「とりあえず、俺ん家でいいだろ? ちょうど今日親帰ってこねぇし」
見るからにリーダー格みたいな男が口を開いた。
「ああ、マッポがガタガタうるせーしな」
私に絡んできたチビがそれに従った。私たちは、途中で寄ったコンビニでスナック菓子と飲み物を買って叔父夫婦の家みたいなボロ家のひと部屋に入った。
「で、お嬢ちゃんこの辺で見ない顔だけどどこから来たの?」
そこら中で空き缶を灰皿にタバコを吸ってるヤニ臭い部屋で私は聞かれた。同年代に『お嬢ちゃん』って言われるとなんか違和感があるな。
「言えない。家には帰れない。いま帰ったら死んじゃう」
悪ガキ共みんなの両眼が輝いた。
「お! 面白れぇ話が聞けそうじゃん。話が面白ければそれをショバ代にしてやるよ」
チビがまたしゃしゃり出た。私は今に至るまでを、大学生のお兄さんたちの情報を徹底的に省きながら話した。
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