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「こういう使い方してる人も居るんだ」
なかでも目に留まったのが、風俗で働きながらアニメやゲームのキャラのコスプレの写真を投稿している女の子のアカウントだった。私は知見を広げた気分になった。
「たとえ生きる世界が違っても、こういうところは変わらないんだな」
コスプレは、漫画やアニメが好きなひとが原作の世界に浸るためのものだと私は思ってた。
確かにその目的の人も少なからず居るんだけれど、他の理由も察しがついた。
「架空の世界のキャラの魅力を纏いながら、纏った自分を見てほしいひとも居るんだな」
その世界は別個なようで私の棲む世界ともリンクしていて、コスプレ衣装とセクシー下着を両方手掛けているブランドも見つかった。
そのブランドは、かつてコスプレイヤーをしながら男を漁っていた人がプロデュースしたものだった。
「……面白いかもしれない」
私は自分に気付かされた。私は今までベッドで裸で男たちに奉仕する『あっきー』を、磨きに磨いて生きてきた。私にとって、磨き上げた『あっきー』こそが自分の唯一の誇りだった。
私はいつの間にか、お客さんに『あっきー』で変わらず満足してもらえるかで『あっきー』の試し斬りをするようになっていた。
それが、風俗の仕事を続ける本当の理由になっていた。
「私は創りあげるんだ、『コスプレイヤーあっきー』を」
これからは、衣装を纏った『あっきー』を磨く。でも、それにはお金がかかりそうだ。仕事、頑張らなきゃ。
◇◆◇
「すみません、『あっきー』さんですか? 一枚撮らせてほしいんですけど」
会場で、カメラ片手の男に私は声をかけられた。どうやら私のフォロワーらしい。
「はい、是非お願いします」
私は笑顔でそれに応じた。コスプレを始めるにあたって私はまず、自分を売りこむことから始めた。それにあたって、ひとつ心がけたことがあった。
「自分がSNSを見てるとき、何を知ろうとし何に興味を持ったのか。男たちは、何を求めているであろうか」
だから私は、まず下着姿の画像からSNSに投稿した。購入元のハッシュタグは忘れず付けて、投稿した直後のその下着のプロモーションのリツイートは絶対欠かさず行った。
結果は目論見通りだった。まず下着自体に目を惹きつけられたアカウントがその下着を着けた女体を探す。そのアカウントが私の下着姿を拡散し、そして私はフォロワーが増える。
私と似たような雰囲気の女の子のアカウントはフォローし返し、応援RTで互助関係を形成する。
似たような雰囲気、これがチョイスのミソだった。そうすると、その女の子の下着姿が性癖に刺さったフォロワーには私も刺さる可能性を高く見込める。
その戦略がどこまで功を奏したかわからないが、結果としてフォロワー数は瞬く間に伸びていった。
「コスプレで真っ向勝負を繰り広げるには、私はこの業界について浅過ぎる」
だから、コスプレの投稿はたまにほんの少しだけ。するときも、前を開けたりスカートをたくし上げたりの画像の追加は欠かさなかった。
衣装よりも、衣装の下を想像させて纏った姿を見てもらう。邪道かもしれないが、私は成果のためなら手段とニーズを選ばない。
「すみません。そこの方、少々いいですか?」
男の声に振り向くと、吸血鬼のような衣装にドレスハットにピエロメイクと藍色の髪といった出で立ちの男が立っていた。このキャラは、確か私のコスプレのメイドのキャラのご主人様だ。
「どうしました?」
「併せをお願いしたいんです。同じ作品ですし、そのキャラの人はなかなか見つけられないんです」
私は競争率の高い水色髪の妹のほうを避けて、桃色髪の姉のほうを選んだ。水色髪の妹を纏った人と併せをできるメリットもあった。
そして男のキャラと親密度が高いのは姉のほうだ。
「はい、こちらからもお願いします」
私は男の指示に従いながらポーズを取って、男の構える自撮り棒でスクショを撮った。最後は感謝の意味でのピースサインで記念撮影。
「ありがとうございました」
「ちょっと待ってください、画像欲しくないですか?」
盲点だった。女の子のレイヤーとはその場で互いのアカウントをフォローし合ってDMで送ってもらってた。だけど、活動上男の影は匂わせたくない。
「そうですね、その前にちょっと涼しいところに移りませんか?」
「いいですよ。こちらもこの季節にこの衣装は少々厳しかったところです」
かんかん照りの日差しの下で、燕尾服の上からマント。何事も、凝り性のひとは大変だ。
「私のアカウントがこちらで、フォロワーの夢を壊したくないんです」
世の中は、ご都合主義の希望的観測でできている。顔出しで下着姿の自撮りなんか上げるふしだらな女が生娘じゃないのは想像に難くないはずなのに、夢に満ちたリプライは次々と飛んでくる。
職業は泡姫だなんてこと、絶対にこのアカウントでは言えない。
「わかりました。では、こちらでも画像は上げないようにしておきます」
男は優しく微笑んだ。
「お気遣いありがとうございます。せっかくなのに、すみません」
「いえいえ、なかなかできない併せをできただけでも十分ですよ。アカウント、フォローだけしておきますね。……、正直、そそりました」
男は悪びれる様子も見せずに言い放った。
「ありがとうございます。私、正直なひとは嫌いじゃないです。……やっぱり画像が欲しいんですけど、今日このあと予定は大丈夫ですか?」
「もちろんです。私服に着替えてきますから、このコーヒーショップで待っててください」
男はマップを開いて指さした。どうやら直感が当たったようだ。
この人は、食べ慣れてる。対戦よろしくお願いするね。
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