2nd Sign : 色欲のダークプリンセス

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「もちろんです。私服に着替えてきますから、このコーヒーショップで待っててください」  男はマップを開いて指さした。どうやら直感が当たったようだ。  この人は、食べ慣れてる。対戦よろしくお願いするね。 「お待たせしました。念のため周りを確認しましたが、どうやらフォロワーさんたちの夢を壊さずに済みそうです」  久しぶりに飲むフラペチーノをゆっくり飲んで味わってると、背格好とスーツケースでそれとわかるさっきの男が現れた。  男は本人である証明代わりに、サングラスをずらしオッドアイのカラコンを着けた眼を見せた。  だからあえて、女の子を先に行かせて待たせたんだね。もしストーカーが居ようものなら、一気に修羅場になっちゃうもんね。 「いえいえ、ありがとうございます。画像、こちらにもらえますか?」  私はSNSのためだけに作ったGメールのアドレスを出した。 「どうぞ。ちゃんと送れてますか?」 「はい、大丈夫です。あと、タメ口でいいですよ。話してて肩が凝っちゃいますから」  写真自体はどうでもいい。連絡手段を確保させて、男の興味を惹きつけたかった。 「じゃ、そっちもタメ語でよろしくね。それにしても、渋いチョイスだよね。みんな人気のある妹のほうを選ぶのに」 「ダメだった?」  さあ、どう出る。どう私の気分を盛り上げる。 「いやいや全然。実は僕、妹より姉のほうが好きなんだよね。妹思いのいいキャラじゃん」  うん、初手は悪くない。 「彼女を象徴するのが、邪教徒に村を襲撃されて一族と角を失ったくだりだよね。彼女は鬼族の天才だったんだけど、角を失ったせいでその能力を発揮できなくなった」  確かそうだったね。纏うついでにちょっと勉強しただけだけど。 「それだけ聞くとかなり悲惨な話なんだけど、彼女にとってそれは福音だったんだよね。それくらい生い立ちの闇が深かった。本来鬼族に生まれた双子は力が分散して弱くなった忌み子とされてて、どちらも出来損ないになるはずだった」  そうそう。 「でも、天才の姉と出し殻の妹が生まれてしまった。落ちこぼれの妹は、天才の姉から角を片方奪った災厄としてとことんなまでに忌み嫌われた。妹にとって、才能の差は劣等感の材料だった。この双子にとって、邪教徒の襲撃は苦しみを全て奪い去るものだった」  それで、得したのは妹だけじゃん? ってならないのがこの双子なんだよね。 「姉は妹を護り抜き、その代償に角を失い、そして妹の劣等感に気付いていた姉はそれにすら歓喜した。『もう自分がかけがえのない妹を苦しめることはなくなるんだ』ってね」  私も、もしせめてお姉ちゃんの姉に生まれてたらお姉ちゃんを護り抜けたのかな。 「以降貴族の屋敷でメイドとして働くも、主な役割は全て妹に任せ自分は引き立て役に徹する。ポンコツのぐうたらというよりは、妹に劣等感と負い目をもう二度と持たせないことを目的にそうしていると僕は思うね」  昔の私は、自分が姉のぶんまで頑張れば姉を救えると思ってた。でもいま思えば、それがより姉を苦しめたのかもしれなかったと、私は当時を思い返した。 「『たっきー』さん。せっかくだから、今日もういちど併せをお願いできないかなと思うんだけど」 「そういえばCNが似てるよね、『あっきー』さん。今からだと始発で帰ることになると思うけど、それでもいいなら」  私はコクリと頷くと、『たっきー』の宿泊先までついて行った。 「悪いけど、先にシャワーを浴びさせてね。僕、メイクに時間がかかっちゃうから、きみが先に浴びたほうがより待つことになっちゃいそうだし」  たっきーに、こちらはもうそれ前提で動いているよと言葉に露骨に込められた。  サングラスとサマーニットのウォッチキャップを外した下から、眉の整えられた端正な顔と根本から藍色に染めた地毛が出てきた。 「徹底してるね。カラコン、眼に負担がかからない?」 「眼は大事だろ? いかに他を取り繕っても眼に手を抜いたらそれらを全て台無しにしちゃうって考えてる。だから、イベントの日は外さない」  私はムっとなってしまった。 「……私、そこまで考えてなかった」 「構わないよ。僕のこれは身勝手なこだわりだって僕自身思ってる。手間をかければかけるほど相手に負担をかけるのにお構いなしにここまでやるのはワガママだ」  たっきーはそう言うと、スーツケースを持って脱衣所に消えていった。いつもと違って心も身体も手のひらの上で転がすように動かさせられ、私は調子が狂っていった。 「自分のリップで相手が染まっていくのがそそる」  たっきーは、重ねた唇を口から離すとそう言った。 「こっちの大きさはどちらかというと妹だね」  たっきーの背丈同様にすらりと伸びた長い指が、纏ったキャラよりふくらんだ場所を脱がせながら揉みしだいた。 「男はいいよね、身長は天然でも身体つきを自分で調節できるから」 「そうでもないよ。妥協してる。見た目を寄せたら設定よりだいぶ体重が重たくなった」  たっきーは、力強くしなやかな身のこなしで私の身体を弄んだ。 「それに、原作じゃ『僕ら』は主人公たちの引き立て役だ。全ての特徴がそのためだ。別にそんなの再現しなくたっていい」 「そうだよね。『ご主人様』は原作では400年も同じ人を想い続けてた一途な人で、こんなに女に器用じゃないもんね」  たっきーは軽く笑い飛ばした。 「これは、僕ときみの二次創作だよ。僕ときみだけで愉しむためのね」  私は私に『これは演技のためなんだ、恋慕の情をただ一方的に募らせ続けるキャラの特徴の再現なんだ』と言い聞かせ続け、かつてないほどに蕩けながら何度も達した。
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