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 慌ただしく見舞いの準備を済ませると、北島知子はもう一度冷蔵庫の野菜室を開けた。やはり、ピーマンの姿は見あたらない。  テーブルにいったん五百円玉を置こうとしたが躊躇うように動きを止め、それをしまうと、代わりに千円札を置いてメモに走り書きをする。 『ピーマン代です。お釣りはあげます』  寸刻中空を見上げてから、付け足す。 『いつもありがとう。  母』  メモを読み返しながら少しだけ表情を緩めた知子の耳朶を、つけっぱなしのテレビから流れる無機質な音声が僅かに掠めて流れ去った。
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