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「万里ちゃんが好きなんだ。その、……俺と付き合ってもらえないかな」
大学サークルで仲の良かった同期の彼。遠慮がちな告白が本当は嬉しかった。けれど。
「あ、あー、うん。そっか。あたしそういう気なかったっていうかあ。悪いけどちょっと考えさせてくれるぅ?」
すぐに飛びついたら安い女だと思われるのではないか。少しくらい焦らしたほうが。
そんな計算が頭を過り、冷ややかな台詞が勝手に口から零れていた。
どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。どうして素直にならなかったのだろう。
もう、遅い。
二日空けた昨日の夕方、そろそろいい頃か、と返事をするつもりだったのだ。待たされた分、きっと彼も喜ぶだろう、などと今考えれば自惚れでしかない優越感に浸っていた。愚かな自分。
もったいぶって手に取ったスマートフォンのバイブレーションの感触が、今も左の掌に残っている気がする。
今日の外出の理由を知らせる、友人からの通話着信。
ちっぽけなプライドで、意地を、あるいは見栄を張ってしまった。やり直せるものなら、今度こそなりふり構わないのに。
そう、やり直せばいい。分岐で進む道を選び間違えたら戻ればいい。ただ、それだけのことだ。
ゲームではなく現実だとしても、さして難しいことではない。
大抵のシーンならば。
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