ミステイク

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「あいつ、なんか心ここにあらずって感じで……」  今日、席を同じくした彼の友人が苦しそうに絞り出した声が、耳について離れない。  誰が見ても「良い感じ」の二人だったと思う。万里自身でさえ、あとは最後のひと押しになる「きっかけ」さえあればと期待していた。  その待ちかねたきっかけ(告白)を、自らの手ではたき落としたのは、他の誰でもなく、万里だ。  まさか保留されるなんて、おそらく彼にとっては青天の霹靂だったのではないか。思い込みで勘違いしてしまったのか、と真面目な彼は悩んだのかもしれない。眠れずに苦しんだのかも。  それで……?  微かな痛みが、袋小路に入り込んだ思考を引き戻す。知らず握りしめていた拳で、伸び掛けた爪が掌に食い込んでいた。  彼は長い爪が苦手らしかった。直接苦言を呈するようなタイプではないけれど、少しでも好みに合うように、と切ることに躊躇はなかった。確かに自慢だった、折らないように気を配って綺麗にネイルを施していた爪を。  ──だって本当に、好きだった、のよ。突然、こんな風になるなんて想像もしてなかった。
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