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「万里、お葬式のお作法、教えたようにちゃんとできたの? お母さんの喪服、クリーニング出すから持って来てよ」
ドアの向こうから掛けられた母の声にも、答える気力などもうなかった。
ふらふらと車道に踏み出した彼を、複数が目撃していたとも聞いた。万里のあの対応が原因だったのだろうか。
もう二度と逢えない。道を間違えた万里の想いは永遠に届かない。突然の交通事故で逝った彼には。
分岐まで戻って道を選び直せるのは生きていてこそなのだ。人生には、命のリセットボタンなど存在しないのだから。
不意に視界が霞んで、頭を強く振り歯を食いしばる。この涙は、何?
──あたしは取り返しのつかないことをやらかしたんだ。後悔したってどうしようもない。……泣いていいのは、あたしじゃない。
~END~
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