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大人の男の余裕
楠本が引き起こした事件は、テレビ等で大々的に報道されることはなかった。
会社を経営する彼女の父等が水面下で
動いたらしいとの噂だった。
彼女は、大学を中退する意思を明らかにし、
罪を償ってからは親の意向で海外へ留学する
ことが凌空や洋二の耳にも入ってきた。
堀江の傷も完治した頃、
季節は冬を迎えようとしていた。
舞華の心の傷も凌空の支えもあり、
皆がもとの日常を取り戻していたある日、
堀江から凌空のもとに連絡が入る。
駅前のカフェに入る凌空わ、
店内を見渡すと一番奥の席に堀江が
座っていた。
凌空は席に近づくと「お待たせしました」と言って席に座った。
凌空を見てにっこり微笑む堀江、
「凌空君、急に呼び出したりしてごめんね」
「いいえらいいですよ。それより堀江さん、
傷の方はもういいんですか?」
「ああ、もうすっかり大丈夫、
このとおりだよ」
と言うと堀江は右腕を高く上げた。
「よかった」と凌空が安心する。
「ところで、今日はなんでしょうか?」
と凌空が堀江に聞いた。
「あ~、え~と」と言葉を濁す堀江。
「舞華のことですか?」と凌空が言った。
「舞華って……」と呟く堀江。
「知ってますよね?
俺たち、つきあってること……」
と凌空が真顔で言った。
凌空の顔を見た堀江、
「単刀直入に話すよ。平、彼女が、
春から再度フロリダに行くことは
知ってるんだよね?」
「はい、最終派遣で、二年間と聞いてます。
そもそも、最初の派遣後の帰国は、
半年間だけだってことも聞いてます。
あの事件があったから、出国が
春に延びたってことも知ってます。」
「そうなんだ。それでその派遣に関して、
もう一人追加派遣されることが
決まったんだ」
「えっ? それって、もしかして」
堀江が頷き凌空の目を見ると、
「凌空君、俺、来年の春、平と一緒に
二年間フロリダに派遣されることになった」
堀江の告白に驚く凌空……
「凌空君、君にはちゃんと伝えておきたくて、
病院で俺が言ったこと覚えてるよね?」
「はい。覚えています」
「君が平とつきあってることは知ってる。
でも、それでも 俺は平のことが好きだ。
だから、このことを君にも日本を経つ前に
ちゃんと言っておきたくて」
と堀江が言った。
凌空は堀江の『大人の男の余裕』を
見せつけられた気がしてならなかった。
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