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自信喪失
「はぁ~」と深い溜息をつく凌空。
「凌空? どうした?」と心配する洋二。
ここは、大学内の食堂、
「言われた。堂々と……」とぼやく凌空。
「なに? どうした?」と聞く洋二。
「堀江さんが、来春 舞華と一緒にフロリダに
二年間派遣されることになった。
そんで、昨日 堀江さんから呼び出されて
舞華が好きだって言われた」
「え? あの堀江さんが、舞華さんのこと
好きなの?」と驚く洋二。
「そうなんだよ、
俺と舞華がつきあってること知ってるのに、
正々堂々と『好きです宣言』された。
二回目だけど……」と落ち込む凌空。
「え……何でおまえが落ち込んでるの?
おまえと舞華さんは恋人同士だよな?」
「だって、あんなに『大人の男の余裕』
見せられたらそりゃあ、こうなるさ」
「こうなるって?」
「彼氏として、自信がなくなるっていうか、
舞華取られるんじゃないかって、
実際にもう……」
「もうって何?」
「あの事件の夜、堀江さん、病室で舞華を
抱きしめてた」
「え~、マジかよ。堀江さんやるな~」
「なに援護してんだよ」
「ごめん、で、おまえはどうするんだよ」
「どうって……」
「凌空、ここはバシッと男を見せろ!」
「男を見せる?」
「ああ、そうだ! 舞華さんを
おまえのその圧倒的なビジュアルで虜にするのさ今こそ、おまえの最大の武器を使う
べきだ!」
「それってどういうことだよ?」
「つまり……ムフフ♡ってことよ」
少し黙り込んだ凌空、
「それは、まだ無理だ」
「何で?」
「俺たち まだ、その、
ムフフ♡の関係じゃないから」
「え? それ本当?」と聞き返す洋二。
「うん、本当」
「何でそんなことになってるんだ。
俺はてっきり、その、大人の関係になってるとばかり」
「その、そもそも、舞華の性格っていうか、
ハグとかキスだけで満足してる感があって
そんで、楠本の件とかあって、
タイミングが……」
「そうか、そういうことか。
でも、凌空、舞華さんが堀江さんと
フロリダに行くまでに何とかしたほうが
いいぞ。ふたりのためにも、
あっ! このから揚げ食べないなら
俺食うぞ」
と言うと洋二はほとんど手をつけてない
凌空の定食のおかずのから揚げを
箸で突き刺すと美味しそうに食べだした。
「はぁ~」
凌空は再び大きな溜息をつくのだった。
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