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「…はぁぁぁ」
グリムは外に夜風に当たりに行き、綺麗な夜空を見ていると、自然と深いため息が出る。
きらきらと光る星たち。それは、まるで彼を慰めているようにも、揶揄っているようにもとれた。
そして、それら星々とは比べ物にならないほど大きな星、月に目を向ける。きれいに、大きく丸く黄色に輝くそれは、彼の追い求める何かと重なるものがあった。
「…ハルザ」
いつも、彼につらくあたってくる彼女。グリムは、彼女がしかめっ面をしているところ以外、ほとんど見たことがなかった。
認めたくなくても、そんな彼女も美しかった。
だからこそ、彼女がため息の原因の一因なのだった。
彼にとって希望の象徴を眺めている時に、どうして彼女の事が思い浮かぶのか、よく分からなかった。
「グリム」
耳慣れた女の声が響く。
グリムは仕方なく星たちから目を離し、彼女のほうに目を向ける。
「夜風にあたるのもいいが、あたりすぎて風邪引くなよ。気をつけろ」
いつも通りの変わらない口調。だが、その台詞からか、グリムにはいつもより優しく感じられた。
「ありがとうございます。優しいんですね」
酒のせいか、星を見ていたせいなのかは分からない。なんと彼は、いつも自分につらく当たっている女に、満面の笑みを浮かべたのだ。
予想外の言葉と笑みを受け取ったハルザは、目を見開いてから顔を赤くする。そして早口で言った。
「……風邪で荷物持ちの仕事をさぼられたら困るからだ」
そう言っている彼女は、月光がうまい具合にかかっていて、幻想的で美しかった。
ほんのり赤い頬。白い、傷一つない綺麗な肌。端麗な顔立ち。
それは、今までグリムが見てきた中で最も美しい女の顔だった。
どうしてあの時、ハルザの顔が思い浮かんだのか、分かった気がした。
ハルザは何か言いたげに口を開いたが、すぐにまた閉じる。ハルザは、呆然とするグリムを置いて、さっさと帰っていった。
グリムは、初めて彼女に好印象を持った。
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