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その子の名前は智也。大人しく、引っ込み思案でどことなく頼りない。近くで観察してみると、上司の言うように挫折が必要な人生を歩みそうな雰囲気を醸し出している。スポーツは苦手だが、勉強は学年で一番できる。世界の国々に興味があり、独学で地理や外国語を学ぶ秀才でもあった。ただ、その弱々しく頼りない姿のせいでイジられキャラとなり、中学に入学すると、やがてそれはイジメへと変わっていった。
「勉強が得意で先生に褒められたからって、いい気になってんじゃねぇぞ」
そんな言いがかりから始まり、無視、仲間はずれ、時には暴言や暴力もあった。真面目な智也は、何をされても学校には通い続けた。しかしついに我慢の限界が訪れ、誰もいない所で涙を流す日々が続いた。
「今だ!」
まさに最適なタイミングだった。智也が完全に壊れてしまう前に、私は彼に挫折をプレゼントした。その日から、智也は登校拒否をするようになった。
ここまでなら今までの仕事でもやってきた事だ。これまでの人間と違うのは、智也はそこで立ち止まらず、挫折をチャンスに変える事ができたのだ。
学校に行かない代わりに、智也は自宅で自分の好きな分野の独学に熱中した。世界地図を端から端までじっくり眺め、気になった事は図書館やネットで調べ尽くす。英語のみならず興味のある国々の言語も習得した。ネットを通じて世界中に友達ができ、オンラインで会話をする事でより言語力に磨きがかかった。学校生活を続けていたら得る事ができなかった、貴重な経験をする事ができた。そして暗かった智也の顔は、再び明るさ取り戻す事ができた。私が提供した挫折を、智也は想像以上に上手く使いこなす事ができた。
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