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智也はその後も、行くべき方向を見誤る事で挫折を繰り返していった。そしてその度に立ち上がり、自分に合ったベストな行き先を見つけていった。上司の言った通り、壁にぶつかる事が多すぎて、不器用な私でもそのパターンを掴むのは容易に感じた。時には、
「違う!そっちじゃないだろ!」
「いやいや、また間違うのか!?」
と挫折の私でさえ思わずツッコミを入れたくなる事もあったが、躓く事で智也は覚醒するので黙って見守った。あまりにも迷い過ぎる智也を放ってはおけない、そんな感覚さえ抱いていた。
ある時、誰よりも挫折が多い智也に高校時代からの親友が聞いた。
「智也って、何か挫折ばっかりしてないか?大変だよな」
智也は笑って答えた。
「みんなは挫折を悪い事だと思ってるけど、俺はそうは思わない。俺ってさ、自分の事がよく分かってないって言うか……これだって思って決めた道でも必ず迷子になってしまうんだ。そんな不器用な俺を、挫折は一旦立ち止まらせて、考える時間を作ってくれる。そのおかげで自分と向き合えるし、挫折が示した正しい道に気付く事ができた。きっと俺の傍には、親切なザセツさんが付いてくれてるんだな」
挫折としての私の仕事が報われた瞬間だった。これまで何度壁にぶち当たっても、決して智也はそれを誰かのせいにはしなかった。もちろん挫折を憎む事もなかった。彼は、自分が今進んでいる道が間違っているんだと気付く為のきっかけとして、挫折を位置付けてくれたのだ。これこそが、「挫折派遣センター」が目指しているゴールなのだ。
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