転星物語

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「あなたはテンというのですね」 「はい」 「(わたくし)はスイ。よろしく。」 その方は美の極みと呼ばれる金星の方々以上の麗しさがあった。微笑む顔が星の瞬きのように眩しく、慈愛の眼差しは七曜に住む人々の中でも最も優しいものだろう。とにかく麗しい。傾国の美女とはまさにかの方のことだった。 また、所作の一つ一つが洗練されていて、芸術の一種かと思わせる。そして、教養の深さにも驚いた。我が星である知性の水星の中でも上位を争うほどの賢さと先見の明があった。学者は顔負けである。 令嬢としての素質を見事に揃え、いい伴侶が見つけられそうなものだが、使いの者はこの私である。貴族の三男として生をうけ、そのまま婿入りもできず、家は没落し、一家霧散となった。その時、道端で草を食って生き繋いでいたところをかの方に拾われる。その優しさが沁み込み、良き主として一生の誓いをたてた。 「テン。(わたくし)のダンスの相手になってくださる?」 「練習ですか?」 「そうよ。お父様とお兄様はお忙しくて手が離せないそうなの。」 「左様でございますか」 ダンスの姿勢になって、三拍子のステップを踏む。没落貴族とのダンス練習など意味があるのだろうか? 「上手ですわ」 「お嬢様の方がお上手ですよ」 「ありがとう」 ああ、なんで美しいのだろう。絵画だとしたらとても値打ちがある。でも、かの方のご尊顔などどんな画家でも描けやしないだろう。それほど全てが作られたようで、作られていないかの方は、我が星だけでなく、七曜が注目していた。
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