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「な、なんだと!!!」
「珍しいですわね。お父様が叫ぶなんて。」
ドア越しに聞こえる切羽詰まったような声。
少し心配したが、大丈夫だろう。
その思いも束の間に掻き消された。
「スイ!」
「なんですか?」
呑気にお茶をしばいていた私達は、いきなりの旦那様の登場に目を丸くする。
「落ち着いて聞いてくれよ…」
「落ち着いています」
旦那様が一番落ち着いていない。
唾をゆっくりと飲み込んだ旦那様はかの方の目の前に立つ。
かの方は旦那様を見上げる形となった。
「スイが『星』に選ばれた…」
「『星』…ですか?」
「そうだ『星』だ」
かの方は少し考え、少し俯き、少し目を伏せた。
その一連の動作はやはり銀河一と言っても過言ではない美しさだった。
「『星』のお役目を簡単に詳しく教えてくださいませんか?」
旦那様はしばし目を伏せた後、かの方を見つめた。
「『星』は『月』様のために贄となり、この世界を安定させる者のことだ」
「贄ということはこの命を投げ出せとのことですか?」
「……そういうことだ」
旦那様が捻り出した言葉はとても私には受け止められなかった。
しかし、かの方は何の顔色も変えず、旦那様の言うことを聞いた。
「これも運命でしょう。お父様。」
「スイ、死ぬのだぞ!怖くないのか!」
「命とは太陽神様が与えてくれた偉大なる奇跡。奇跡とは無くなる日が来るのです。それが私には早かっただけ。単純なことです。」
「だが!」
「お父様やお兄様、懇意になさってくださった方々を置いていくのは辛いことですが、お母様がいなくても生きていますよね?」
「だが、もう失うのは辛い…」
「失うことで得られることもありましょう。七曜の長の方々に一目置かれるなど到底ございません。」
「しかし…」
まるで子供のような旦那様と大人のようなかの方。
その姿は対照的で印象に残った。
これがかの方の亡くなる三ヶ月前の話である。
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