左の道

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左の道

「あっ!」 タイヤが道路をこすり、ヒステリックな急ブレーキの音があたりに響いた。 「馬鹿野郎!死にたいのか!」 「す、すみません。」 俺の体に触れるか触れないかの際どさで車は止まり、俺は、心臓が飛び出しそうな想いを感じた。 本当に危ない所だった。 俺は慌てて歩道に戻る。 周りにいた人々が俺を見てざわめいていた。 その中には、俺が慣れ親しんだ瞳があった。 「幸……」 幸と俺の視線がぶつかった。 幸も俺に気付いたらしく、その瞳が揺らぎ始めた。 信号が変わるのをもどかしい想いで待つ。 その間にも、幸がどこかに行ってしまうんじゃないかと、気が気じゃなかった。 だけど、まるで俺の視線が呪縛にでもなってるかのように、幸はその場から動かなかった。 若い女性が何事かを話しかけているが、幸は女性の方を見ることさえなく、ずっと俺をみつめていた。 やがて、信号が変わった。 俺は、幸だけを見て、全力で走った。 幸も同じように、俺を目がけて走って来る。
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