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家についたときは既に日付が変わっていた。疲れていたにもかかわらずなかなか眠る気になれなかった。もしかしたら梅野君も同じ気持ちなのかもしれない。そう思っていると仕事用の携帯電話が鳴った。画面を見ると、梅野君から電話が着ているようだった。
「はい、青倉です」
僕は電話に出た。
「夜遅くにすみません、あの、梅野です」
「ああ、梅野君か。どうしたの、こんな夜中に」
「実は、その、眠れなくて」
彼はどこか申し訳なさそうな様子だった。
「君もか」
「はい、すみません」
「いいんだよ。僕だって明日、午前中は捜査を行おうと思っているんだ。気にしないでくれ。そうだ、明日も教育実習生として鈴蘭中学に行くんだろ?よかったら協力してくれないか?」
「ええ、もちろんです!彼の死の真相を暴いてみせます!」
「ありがとう。おっと、もうこんな時間だ。じゃあ、また明日」
腕時計を見ると午前一時となっていた。そろそろ寝ないと明日に響くと考えた僕は一言断ったうえで通話を終了した。
電話を切った後、僕は桜田先生の死について考えていた。彼は本当に自殺なのだろうか?それにしては、「桜田先生の自殺」という結論を必要以上に強調しているかのように感じる。たとえば机の上にある鍵だ。わざわざ教卓の上という目立つ位置に置いたのは、何か作為的なものを感じる。おかしいと言えば、後ろに書かれていた「サヨナラ」のメッセージだってそうだ。一言しか書かれていないのも、ホワイトボードに書いたというのも、最期に生徒に宛てるにしては、余りにも簡素過ぎる。定規を使って字を書いたところを見ると、筆跡を誤魔化そうとしたのかもしれない。
つまり、これは自殺ではなく他殺であるということだ。しかしそう考えると、犯行が可能だったのは鍵を持っており、かつ理科の授業中トイレに行くと言って教室から離れた菊池君しかないことになってしまう。そんなはずはない。何か裏があるんだ。僕は再びベッドに潜った。気のせいだろうか、先程までと比べて快適に眠れそうな気がした。
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