第一科目 国語

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「おはようございます」 ドアを開き、塾の校舎に入った。本日は土曜日であるため、世間では休日を楽しむムードが溢れているが、塾業界においては話は別だ。今でこそ人はほとんどいないが、次第に講師、塾生共に入ってくるだろう。 「おはようございます。青倉先生」 既に出勤していた春坂さんから声をかけられた。彼女は自分の席で小テストの採点を行っている。塾講師の仕事というと多くの人は講義を行っている姿を連想する。しかしプリント作成や教材研究といった目立たない仕事にかかる時間もかなり長い。 「いやあ、今日も早いね」 「本日中に片づけなければいけない仕事がありますから」 「そう、何かあったらいつでも僕に言ってね」 「おはようございます」 彼女と話してすぐに、梅野君がドアから入ってきた。 「おはよう、梅野君」 「おはようございます。あの、秋川君は?本日のことで確認したいことがあったのですが」 「ああ彼ね。いつも通りだよ」 「そうですか」 彼はいつも時間ギリギリ、もしくは遅刻して出勤してくる。先輩より早く来い、とまでは言わないが、余裕をもって、せめて五分前には出勤してほしいと前々から言っている。にもかかわらず改善されない。塾長や他の社員からは僕の管理能力不足だと言われてしまっている。実際その通りであるため何も反論は出来ないが、それでも少しは梅野君を見習ってほしいと思うばかりだ。 「じゃあ、僕は昨日の小テストの採点を行っています。教育実習で平日に行けない分、休日で穴埋めしないといけませんから」 「そ、そうか。じゃあ頼むよ」 僕は彼のことを心配していた。まあ大丈夫だろうとは思っているが、それでも一抹の不安はあった。彼も大丈夫とは言っているうえ、他人を気にしても仕方がないと切り替え、僕は仕事に励んだ。
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