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午後十時となった。書類の処理に没頭していたところ、唐突にドアが開く音が聞こえた。誰かが入ってきたようだが、かなり息が荒れている。数メートルしか離れていなかったとはいえ、さらにアルコールの匂いが漂ってきた。そのため一瞥しなくても誰が来たのか分かってしまった。
「お、おはよーございまーす」
「秋川君ねえ、今何時か分かってる?」
塾長からの怒号が聞こえる。現在の塾長は長谷川塾長という、最近赴任したばかりのやり手の塾長なのだが、その分塾生にも講師にも厳しい。
「えーと…今十時っすね」
「始業時刻は?」
「えーと…八時っす」
「二時間遅刻しているじゃねえか」
「す、すいません。明け方まで飲んでまして、寝坊しました」
彼の顔には未だに笑みが残っている。事を真剣に受け止めていないのだろう。アルコールの匂いだってそうだ。彼が酔いを残したまま出勤することは別に珍しいことでもなんでもない。
「おい、青倉」
不意に塾長が話しかけてきた。不運にも僕は二人の近くにいた。
「お前が適切に指導しないから、こんなことになってるんじゃないのか?」「お、お言葉ですが、何度も彼に指導はしていまして…」
「言い訳は無用だ!部下のマネジメントくらいちゃんとやれ!」
近くにいた多くの人の視線を集まてしまった。公開処刑も同然である。こんなことになるなら一瞬だけトイレに隠れていればよかったかもしれないと後悔した。
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