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授業や合間の事務作業を終え、あっという間に夜となった。今日行う最後の授業である。
「こんばんは」
二人の生徒が挨拶してきた。一人は菊池圭一、もう一人は金子翔だ。彼らはそれぞれバスケ部のキャプテン、副キャプテンであり、成績も優秀だ。まさに皆の模範となるような生徒である。大会を控えているというのもあり、最近では夜まで練習することが多い。そのため変則的なスケジュールとなり、今では個別での講義が主体となっている。当塾では長いデスクの真ん中に講師が座り、両隣に生徒が座るシステムを採用している。今回は僕が真ん中に、僕から見て左に菊池君、右に金子君が座るというシステムだ。
「じゃあこの問題だけど、分かるかな?」
「はい、答えはウです」
「流石だね!そうだ、最近梅野先生ってどう?」
彼らの通う鈴蘭中学校は、梅野君の実習先でもある。更に梅野君は彼らのクラスで実習を受けることとなった。
「普段の授業よりガッチガチになってておもろいですよ」
金子君が返答した。
「ガッチガチ?」
「そうそう、それに僕らに対して目も合わせてくれないんですよ。普段はもっと話しているのに」
今度は菊池君が返答した。
「目を?どうして?」
「色んな生徒と話せって言われているみたいで」
「そうそう、桜田の奴もスパルタ過ぎるんだよなあ」
「桜田って?」
「俺らのクラスの担任っすよ。あいつ、かなり厳しい先生でさ。その癖自分には甘いんだぜ、この間なんか、校内禁煙なのに煙草の臭い漂わせていたんですよ!あんなのもとで実習とか、梅野先生もついていないっすよねえ」
「まあまあ…。なるほど、教育実習も大変だねえ…おっと、これ以上話すと盛り上がって脱線しそうだ。えーっと、どこまで行ったっけ」
僕は雑談を楽しみたいという気持ちを抑え、授業へと戻った。
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