第二科目 理科

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二人で会議室内に入った。中には事件の関係者と思しき人達が集まっていた。その中には実習生の梅野君の姿も見えた。しかしながら、犯人だと疑われている菊池君の姿は見えなかった。 「お待たせしました。えー、それではこれから、事件の全体の流れを確認したいと思います。 事件は理科の授業中に起こった。理科の授業が終了する十分近く前、二組の教室に用のあった実習生の梅野君が教室に向かったところ、教室右奥の、窓に面したデスクに座っている桜田先生の姿が見えた。そうだね?」 「は、はい。呼びかけたのですが、全然反応がなく、おかしいと思ったんです。そもそもあの部屋に先生がいること自体おかしいですし。中に先生が持っていたと思われる鍵があったので、予備の鍵を持っている菊池君のところ、すなわち理科室へと向かいました」 梅野君が憔悴した様子で返答した。 「そこを偶然あなたが通りかかったと」 大柄な中年男性に背を向けた。梅野君によると、水川仙一という先生らしい。どうやら数学の先生のようだ。同時に学年主任でもある。厳格な風貌から生徒から恐れられているのだろうと思わず邪推した。 「はい、職員室を出てトイレに向かおうとしたところ、そちらの梅野君の様子がおかしかったので、声をかけたのです。そこで私は職員室に戻りました。職員室と保健室は近いので、同時に行った方が早いと考えたのです。あ、梅野君には理科室に行ってもらいました。職員室と保健室は二年生の教室と同じく二階にあるのですが、理科室は最上階の四階にあるので、別れた方がいいと思ったんです」 「水川先生のおっしゃる通り、授業が終わる直前に実習生の梅野さんがこちらに来ました。そこで鍵を持っていた菊池君と一緒に、教室へと向かったのです」 理科の花木先生が言った。若い女性の先生で、実験用の白衣がかなり似合っており、清楚な印象を与えている。以前は理系に進む女子のことを「リケジョ」などと呼んだが、近年では死語になりつつあると思った。 「そこで菊池君に頼み、鍵を開けて入室すると、ナイフで胸を刺し、あるいは刺されたことで事切れた桜田先生がいた。彼の死体と、教室の後ろに設置されたホワイトボードに赤いペンで書かれたこれが皆さんの目を奪った。という流れでいいですよね?」 警部は写真を見せた。そこには教室後ろのホワイトボードに赤いペンで大きく書かれた「サヨナラ」の文字が写っていた。恐らく定規か何かで書かれているのだろう。一同は警部の言葉に同意する形で頷いた。 「そして椿先生、あなたがやってきて死亡の確認を行った」 椿先生というのは鈴蘭中学校の養護教諭である。 「は、はい。彼はもう手遅れでした」 「次に教室内の状況だが、ベランダや校庭側の窓、そして廊下側の窓全てが内側から鍵をかけられており、その上外から閉めることは不可能だという。唯一外から出入り出来るのは教室内前後にあるドアだが、どちらも鍵がかけられていた。そのドアを開けるための鍵は教卓の上に置かれていたという。ちなみにドアは左右にスライドするタイプの、一般的に教室で使われているものである。つまり密室というわけだ。まあ、あくまで鑑識からの情報だけどな」
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