11人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしてこの状況下で彼が疑われる必要があるんですか?メッセージもあったんですし、自殺の可能性だってあると思います。だって、彼はずっと授業を受けていたんでしょう?」
僕は反論した。
「実はな、鍵を持っていてアリバイのない人物は彼しかいないんだ」
「え?」
「教室の鍵は二つある。一つは先生側が保管している予備の鍵、これは普段職員室で保管しているようだが、事件が起きたときは教室内の教卓の上に置かれていたようだ。そしてもう一つは普段使っている鍵。普段は黒板横のフックにかけられているらしいが、移動教室のときなんかは学級委員が持ち歩くみたいだな」
「学級委員と言うと、菊池君ですよね」
「ああ。実は授業中、彼は腹痛を起こしてトイレに向かったらしいんだが、その間に殺すことが出来たんじゃないかっていうのが俺の推理だ」
「そんな、彼が殺人なんて」
「分かってる。あくまでこれは一つの可能性に過ぎない。まだ自殺か他殺かすらはっきりしていないからな。だが全ての可能性を考量するのが警察の仕事だ。それが上の意向なんだよ」
「ということは、本心から菊池君を疑っているわけではないと?」
「一応な。ただ、桜田先生と揉めていたって証言があるんだ。完全に容疑者から外したわけでもないから、気をつけろよ」
「先生と?そんな、普段の彼からしたら想像出来ないです」
彼は絵に描いたような優等生だ。先生と揉めるなんて考えられない。
「人の本当の姿なんて、案外分からんものだぞ」
あくまで誰に対してもフェアに疑いながら捜査を行うつもりのようだ。僕らが解放されたのは夜遅くだった。生憎仕事に穴をあけてしまったが、教え子が疑われていることと比べたら大した問題ではなかった。菊池君は夜遅くまで拘留され、解放された後も警察の監視下に置かれているからだ。
最初のコメントを投稿しよう!