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ー暁に旅立つならば。ー編 光太郎と被害者 3
光太郎たちは
マンションに入る。
リンゴは警戒し躊躇していたが
光太郎は迷いなく進んでいく。
リンゴは周囲を見回す。
薄暗く
埃臭い独特の匂いの建物。
その奥
壊れかけた郵便受けの向こうに
中庭が見え
太陽が差し込んでいる。
雑草と錆びついた公園の遊具が
反射して光っている。
左手に折れて
1階の通路を歩いていく。
通路に並ぶドアは
みな塗装が剥げて
錆びついていた。
足元には
住人が捨てたのか
ただ置いてあるのか
家具や家電が放置されて
土埃をかぶっている。
外を見ると
手入れのされていない
街路樹や雑草が生い茂って
外界から建物を遮断している。
1番奥の突き当りの部屋。
そこで光太郎はドアを叩いた。
インターホンは古びていた。
既に壊れているのだろう。
「宮本さん!上野です!!」
しばらくの沈黙の後、
ドアが軋みながら開いた。
ドアの隙間のチェーンロックの向こうから
50がらみの白髪の男が
いぶかしそうに顔を出す。
光太郎の顔を睨む。
四角い黒ぶちメガネをかけ
着古して型崩れしたワイシャツに
紺のスラックスを履いていた。
ずれたメガネを直し
光太郎の顔をよく見る。
「おお!!
何だ君か!どうした?
まま、入りなさい。
おお、かわいい女の子まで。
さささ、汚い所だけど。」
急に笑顔になり
大げさな身振りで
光太郎たちを招き入れた。
今まで通話していたのか
ライフ・コードが展開していたが
いそいそと閉じると中に通された。
中はこじんまりとした
2LDKだったが
雑然としすぎていて
もっと狭く感じた。
棚やテーブルには
書類の束が積み上げられ
壁の至る所には
新聞の切り抜きやメモが
びっしりと貼り付けてあった。
部屋の奥にはベランダに続く
大きい窓があり曇っている。
その窓から差し込む光も
物に遮られて薄暗い。
「大丈夫なのか。この男は。」
リンゴは後ろから
光太郎に尋ねる。
光太郎が振り返ると
書類が崩れ落ちてきた。
光太郎が慌てて拾おうとする。
「ああ、いいよいいよ。
ほっておいて。」
宮本は笑いながら
2人を奥の部屋に通した。
小さいテーブルの上に山積みの
書類を乱暴に脇にのけて
座布団を2つ敷いて座らせた。
埃が舞う。
窓を開け
お茶を用意して勧めると
自らは部屋の角に置いてある
机の椅子に腰かけた。
「で、どうした?
まさか結婚とか?まだ早いか!」
自らはマグカップに入れた
お茶をすするとカカカと笑った。
光太郎は
宮本の変わらぬ様子に安心して
要件を切り出した。
「特高の件で…。」
その瞬間から宮本の表情が変わった。
光太郎は
八木沢兄妹の経緯から
リンゴの記憶を取り戻したい旨まで
順を追って話した。
宮本は顎に手を当てて
苦い顔を続けていた。
咳ばらいを1つすると
低いトーンで話し始めた。
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