-機械仕掛けのイヴ-編 プロローグ 6

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-機械仕掛けのイヴ-編 プロローグ 6

(6) 答えたリンゴの 機嫌が悪くなるのが見て取れるが ひるまず正が問いかける。 「今は少しはいるさ。 お前から見りゃ、同級生なんて みんな馬鹿だろうけどな。 演算機能もネット検索も 一瞬のお前と 比べちゃかわいそうだよ。 人の価値はそこじゃない。」 話が逸れてしまっているが 正は核心の男を探らねばならない。 おそらく学校のクラスメイトだが、 直に訊ねると答えないだろう。 遠まわしに 核心に迫っていくつもりで 話を続けた。 「言い寄ってくる 男子生徒とかはいないの? ま、お前の無愛想じゃ モテるわけないか。かかか。」 リンゴはムッとして答える。 「悪かったわね。 人間はネクラな奴が嫌いなのよね。 それだって個性なのに。 私の事好きになんてなる訳ないじゃない。 私、足太いし。 目だって飛崎ミユみたく パッチリじゃないし。 わがままだし。 料理もできないし。 食べなくて平気だし。 機械だし、私。あはは。 恋愛なんて 関係ないし 理解できないし 時間の無駄よね。 限られた時間はもっと 有効に使いたいの。 みんな愛だ恋だって、 結局欲望じゃない。 もっと崇高に 生きればいいのに。 人間は万物の霊長なんでしょう? 動物と変わんないじゃない。」 リンゴはハンバーグをつつきながら いらだたしそうに答える。 正が尋ねる。 「限られた時間ね。 そうだな。 じゃあ、どういう男なら 貴重な時間を使ってでも 仲良くなってみたい?」 リンゴの手が止まる。 心なしか 真剣に考えているように見える。 端末を見ると さまざまなデータフォルダを 目まぐるしく開いて検索している。 正はさらにそれを促す。 「今まで会った男で いいのはいなかったか?」 リンゴは先ほどの記憶データの ロックの解除コードを入力して 男のデータを見返そうとしている。 「来た。」 正は思った。 正はロックが解除されると 即座に男に関する全てのデータを 端末でコピーした。 いつまた ロックをかけられるか分からない。 リンゴは顔をすこしうつむいて 横を見ながらたどたどしく答えた。 「弱い者を助けられる人は… 何かいいかもね。 他人の為に危険とか苦労できるって。 そういうのって理解できないけど。 崇高な気がする。 私には、ない。」 正の膝の上にある端末では リンゴのある記憶データが 再生されようとしている。 リンゴがコンピューターで 回想を始めているのだ。 端末はリンゴの眼を盗んで テーブル下の正の膝の上に置いてある。 端末での音声は消してある。 正は少し罪の意識を感じながら ちらちらと画面を覗き見た。
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