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-蟲どもは鈍色の夜に歌う-編 一話 I 'm (We're) not a steppin' stone.2
2
3年前に終わった
第二次極東紛争後の騒乱は
まだ続いている。
紛争によって生み出された
機械人間や改造人間、超常能力兵士の戦いは
この時代の戦争と人間を大きく変えた。
とりわけ人間の超常能力は
紛争前のとある時をきっかけに
可視化、物理化を始めた。
当然、戦力へ加入されると
大きな威力を発揮した。
すると新しく発現した物だけでなく
今までまがい物とされてきた
地方土着の呪術なども、
徴用され戦闘へ駆り出されていく。
エイジの一族も
以前は信仰による祈祷、呪術を行う
いわゆる「拝み屋」一族であったが
戦争の渦へ飲み込まれていった。
さて、この物語はその後日譚として始まる。
第一新東京市東部も被害は甚大であった。
今でも立て直しの叶わない家や
バラックの集落が乱立している。
破壊された道路は歩く度に
散らばった砂利が鳴った。
政権をとった軍事独裁政権は
利権にまみれ、庶民など顧みない。
新政府による新たな政策として
国家資本主義が強力に実行されていた。※
※国家資本主義とは
国家・指導者が支配指導して
資本主義を行う事。
一部の特権階級によって行われる政策は
彼らに有利な社会システムとなり
下層階級は努力で這いあがる事もできない。
仕事のある者はまだ良かった。
貧しい人々は生きる為に
闇市や非公認の商業活動によって
生活を成り立たせるしかない。
こうして格差は広がり
分断が始まる。
食糧事情も戦時中よりは
良くはなったが十分とは言えない。
市中には乾いた風が吹いていた。
それでも復興は進み、
希望を感じさせる物を
見る事もできる。
街を歩くと
さわやかな白いワイシャツを着た
夏服の学生を見かける。
公立第一新東京市立東高等学校の生徒である。
この高校は創立60周年にもなり
地元に根付き
親子2代で通う者も珍しくない。
教育を途絶えさせてはならないという
地元の有志やボランティアの協力で
再開にこぎつけて運営されている。
校舎は崩壊を免れたものの、
老朽化と戦火でところどころ
崩れたり煤で黒くなっていた。
2階の角部屋に
2年C組の教室がある。
中では生徒たちが朝の挨拶代わりに
はしゃいでいた。
窓から朝日が差し込み
外には校庭に植樹されている
桜の葉が青々と茂っているのが見える。
桜の木特有の幹のごつごつした表皮と
流れ出るドロドロとした樹液が
生命力とグロテスクさを感じさせる。
予鈴のチャイムが聞こえ
生徒たちが一斉に席に着く。
ホームルームが始まる。
頭が禿げ上がり小太りな担任教師が
教室に入って来て教壇に立つ。
その横にエイジが続いた。
当番が号令をかけると
生徒たちは立ち上がり
教壇の上に掲げられた現首相の肖像写真に
礼賛を述べ一礼をした。
エイジは従わず
くだらなそうにそっぽを向いていた。
担任教師が驚いて注意するが
どこ吹く風であった。
生徒たちは転入生に興味深々で
ざわめいた。
担任教師は言う事を聞かないエイジに
汗をかいて何か諦めた表情をしている。
「えー、
今日から転校してきた犬飼映二君です。」
担任教師が黒板に
犬飼映二と漢字で書くと
エイジはそこに割入って
乱暴に黒板消しで消した。
チョークを取ると
「イヌカイ エイジ」と
カタカナで書きなぐった。
エイジはまたギターをかき鳴らし叫ぶ。
「ノー・フューチャー!」
首相の写真に向かって
舌を出しながら〇指を立てて挨拶した。
生徒たちはエイジの
いかれた雰囲気に戸惑いを隠せなかった。
ひそひそと話し合い浮足立つ。
その中でひときわ絶望に駆られる女生徒がいた。
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