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ー暁に旅立つならば。ー編 水崎葵の事 16
旅立ちの朝。
葵は握り飯を作り終えると
出発の準備にかかった。
アパートを出ようと思ったが
何かが心に引っ掛かった。
ソファの上にたたんである
和希のくれた洋服が目に入る。
「こっちで…行ってみようかな。」
何か葵の心境も変わって来ていた。
着替えて古い鏡台の前に立つ。
飾りブラウス。
フリフリの黒のミニスカートのワンピース。
それに黒タイツ。
なれない服装で恥ずかしかったが
その上にリュックを背負う。
リュックだけが自前で
男物の茶色の物で
ファッションから浮いている。
そんな事は気づかずに
葵はドアを開けた。
水崎の里に来てからの事が
頭をよぎった。
これから
絶望的な状況と向かい合わなければならない。
それでも一歩目を踏み出す。
外はまだ陽が上がりきっておらず
薄暗く青い街並みが広がる。
気温もまだ涼しい。
恐怖なのか興奮なのか
高鳴りを押さえながら
学校への道を歩いた。
農道を抜けて
学校の校門に差し掛かり
時計を見るがまだ早い。
時間をつぶそうと移動しようとした所
後ろから声を掛けられた。
「葵ちゃーん!!」
後ろから和希が手を振りながら
かけてきた。
ロリータ調で
フリルネックの付いた
黒の半袖のワンピース
丈は膝下くらいだ。
スカートの裾からは
白のフリルが出ている。
黒タイツで
靴はリボンの着いた
革靴を履いている。
2人は嬉しくなった。
似た様な服を着て
早すぎる時間に来ても
偶然出会えるという親和性も
気持ちを強くした。
「おー和希ちゃん!早くなーい?」
「イヤー眠れなくってさ。
葵ちゃんも早いね!」
「それじゃー
予定よかだいぶ早いけど
行っちゃおーか!」
「OK!行ってみよー!」
2人はそろって歩き出した。
葵はリュックの中を探り出す。
ラップに包まれた握り飯を2つ
和希に手渡した。
「食べて!
寝れなくてさー握っちゃったよ!」
「ホントー!?
朝食べてなかったの。ありがとー!
自分で握ったの?すごーい!
私、やったことないよー!」
葵はすでに自分の分を
ほおばって頬がふくらんでいる。
「なにぃー。
やったことないぃー?
和希ちゃんお嬢様かっ!?」
「そー私、お嬢様なのさ!」
「おぉー?調子のんなやー!」
2人は朝日の中を
とめどなく笑い歩いた。
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