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ー暁に旅立つならば。ー編 光太郎と被害者 2
到着した先は
リンゴの自宅だった。
住宅街に交じって
整備工場が併設された一軒家が建っている。
2人はそれを少し離れた所から見ていた。
リンゴは集中したように
見つめている。
「何か思い出したの?」
光太郎が聞くと
リンゴは踵を返して引き返し出した。
「学校の住所録から私の住所を調べて
来てみたが中には誰もいないようだ。
私の仲間は捕まったのか逃げたのか…。」
またも光太郎は追いかける様について行く。
「冴島さんの家族…大丈夫なのかな。」
リンゴは返事をしなかった。
整備工場はしんみりとしていた。
電車に30分程度揺られ
寂れた駅を出ると
住宅地の路地を歩く。
その1区画に入ると
戦争で焼き出された人々の
吹き溜まりになっている。
アスファルトは割れ
建物は所々に崩れ煤けていた。
バラックや廃墟が殆どである。
人の気配もまばらで
道端には座り込んで動かない老人や
2人をジロジロと
観察してくる住人がいた。
みな痩せ細っている。
秋の風が吹き飛ばす枯葉が
この地区の寂寥感を表していた。
汚れて
ヨレヨレの服を着た子供が
しつこく物乞いに寄ってくる。
光太郎はポケットにあった
小銭を渡すと微笑んだ。
子供は受け取ると
光太郎の顔を見るか見ないか
向こうの廃屋へ走っていった。
廃屋のそばには
さらに多くの戦争孤児たちが
たむろしているのが見えた。
「君は彼ら全員を救うつもりか?」
リンゴは冷めた表情で聞いた。
光太郎は少し悔しそうな表情を浮かべた。
「僕に力があれば…」
リンゴはあきれた様な表情で
よそを向いてしまった。
「傲慢だな。」
力があり戦いを知り
弱肉強食を理解するリンゴからすれば
光太郎ののんきな振る舞い、
不可能な性善説は悪しき物にすら見えた。
そのまましばらく歩き続けたが
なかなか到着しない。
リンゴは充電が残り少ない事も加わって
イラつきを隠し切れず
たまりかねて訊ねた。
「まだなのか!?
一体誰に会いに行くんだ!」
光太郎はリンゴの様子など
意にも介していない様に
すらすらと喋り出した。
「特高に家族や知り合いを
連れ去られた人って結構いるんだ。
表には出ないけどね。
被害に遭うと
誰かから自然に声をかけられる。
そうして仲間になって
秘密でみんな協力し合ってる。
その人もその1人で
昔は報道の仕事をしてたって。
顔が広いから
誰か紹介してくれるかもしれない。」
光太郎は立ち止まると
廃マンションを見上げた。
「ここだ。」
リンゴも見上げる。
10階建てのマンションで
壁面は黒く汚れて
ひどくひび割れている。
窓は全て割れて
がらんどうになっていた。
そのいくつかには人の気配があったが
2人を探っているだけで
特に動きはない。
「行こう。」
光太郎は砂利を踏みしめて
中に入っていった。
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