ー暁に旅立つならば。ー編 光太郎と被害者 4

1/1
前へ
/339ページ
次へ

ー暁に旅立つならば。ー編 光太郎と被害者 4

「光太郎君。 やめておきなさい。」 光太郎は意外な言葉に驚いて 眼を見開いた。 宮本はリンゴを一瞥して 話を続ける。 「すまないが その娘は機械人間なんだね。 なら、 君の命や人生を 懸けるべきじゃない。 私を見てみなさい。 体制を批判する記事を書いたら 出版業界から干されてこの様だ。 職を失い反国主義者として 特高に追い回されている。 ※ まぁ私はいい。 ジャーナリストだ。 危険を冒しても間違っている事は間違っていると 伝えなければならない。 だが、家族も巻き込んでしまった。 ある日家に帰ると 妻がいなくなっていた。 いい女だった。 申し訳ない事をした。 生きているなら、 必ず取り戻してやらねばならない。 私の命なんてくれてやる。 だがその娘は機械だ。 あと数年すれば どちらにしろ動かなくなる。 君はまだ若い。 これから違う人生を歩める。 この社会を正すのは私たち大人の責任だ。 何とかして見せる。 まだ特高が 君に手を出して来ていないなら 全部忘れて やり直す方がいい。」 ※ 言論統制 国家が危険とみなす報道・出版 また思想を取り締まる。 結社やデモ、個人の会話も その対象とされる。 思想統制 国家の思想を受け入れさせ 忠誠心を高める為に 国家の発案する方針以外を規制する。 教育やメディアに介入し先導していく。 これらによって国民は政府に 逆らう事が出来なくなり 取り締まられなくとも 個人レベルで村八分を恐れ 支配されていく。 「でも…!」 光太郎が言いかけた時 宮本のライフ・コードが着信した。 「すまない。」 そう言って通話を始めた。 「なんだって⁉」 みるみる宮本が青ざめ 汗をかきだした。 通話を切ると あわただしく窓の外を覗いて 辺りを見回す。 次に入口の方へ行こうとすると ドアがもの凄い音を立てた。 ドアを打ち破ろうとしている様で 何度も続く。 3人は驚き 騒然となった。 宮本は歯噛みした。 光太郎を捕まえて 立たせた。 「特高だ! 仲間から連絡があった! すでに目をつけられていた! ここに来たのがまずかったんだ!」 宮本はリンゴをじっと見る。 リンゴは動じていない。 そこかしこに目配せして 何かをチェックしている。 おそらくセンサーで 敵の数や状況を測っている。 目つきが鋭い。 戦うつもりなのが見て取れる。 その間も ドアの音は連続している。 それを見て宮本は 口の中に何か苦いものが 広がるのを感じた。 汗がしたたり落ちる。 「くそっ!」 そして決意した。
/339ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加