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ー暁に旅立つならば。ー編 光太郎と被害者 5
宮本はライフ・コードを開き
データを見る。
机に向かうと
紙を引っ張り出し
荒っぽくメモをした。
メモを光太郎の手に押し込むと
そのまま
手を握って早口に言った。
「窓から出て
植え込みの中を突っ切って行け!
逃げおおせたら
ここを訪ねなさい。
以前仕事で知り合ったんだが
機械人間だと噂がある。
事件を起こして
身を隠しているが
このメモを見せれば
会ってくれるはずだ。」
「宮本さんは⁉」
「必要な書類を持ったら
後から私も逃げる。
私にはやる事がある。
君たちとは一緒に行けない。
いいか!光太郎君!
もう引き返せない。
行け!
捕まるなよ!」
そのまま振り返り
窓を開ける。
「さあ!」
光太郎はリンゴを見た。
リンゴは頷きもせず
立ち上がる。
背筋を伸ばし
ドアの方を睨むと
手首を鳴らした。
戦うつもりなのが見て取れる。
「何やってるんだ!
行くんだ!」
光太郎はリンゴを
窓から押し出した。
続いて光太郎も出る。
出ざまに宮本の顔を見て
頭を下げた。
宮本は汗をかきながら
ニコリと笑う。
「気にするな。
私の選んだ道だよ。」
2人は窓を出ると
生い茂る雑草や植木をかき分けて
マンションの裏に出る。
裏は畑が連なっていて
農道がまっすぐに続いていた。
両脇には野生の秋桜が咲き連なっている。
光太郎は走り出そうとしたが
リンゴは立ち止まった。
マンションの方を振り返り
眺める。
「撃退した方が早い。」
「何言ってるんだ!
特高を甘く見ちゃいけない!
今度は記憶だけじゃすまないかもしれないぞ!
宮本さんが決死で逃がしてくれたんだ
無駄にするな!」
光太郎は叫び
リンゴの手を取って走り出した。
強い風が吹き
秋桜の花びらが舞う。
2人は秋桜の中を
走って行った。
ふいに手を取られたリンゴは
不思議そうな顔で
自分の手を握る光太郎の手を見た。
その感触を確かめる様に
手を握り返してみた。
しばらく走ると
川辺の土手に出た。
マンションが遠くに見え
追手の気配もなかった。
2人は手を離して
一息ついた。
手を離したら離したで
リンゴは不思議そうな顔で
自分の手を見ていた。
光太郎はそんな事は知らず
次の事を考える。
「宮本さんがくれた連絡先…。」
光太郎が
宮本の渡してきたメモを見る。
どこかで聞いた事がある名だと
光太郎は思った。
そこには住所と共に、
ある名前が書いてあった。
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東京都港区〇○町〇-〇○
三嶋龍三
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