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ー暁に旅立つならば。ー編 侵入者 1
幼い少年が1人
歩いている。
Tシャツに短パンで
泣きながら母を探している。
母がもう居ない事は
少年は知っていた。
夏の夕暮れに染まった
山里の小さな町の
路地をあてどもなく歩く。
ヒグラシが鳴き始めていた。
歩くその先には
どうして忘れていたのか
自分の家があった。
大きな
農家の様な屋敷。
門を抜けると
鶏が数匹
地面をつついている。
少年は入りたくなかった。
玄関の
ガラスの引き戸の下から
血の様な物が
滲み流れ出してきた。
今は思い出せないが
中で何が待っているか
知っている。
しかし
時が過ぎるのを
止められない様に
起こりくる出来事も
止められない。
少年は
開けたくはないのに
身体が止まらず
ガラス戸を開ける。
中には父が血まみれで
倒れていた。
そして
白髪の長髪を垂らした、
狼の顔をした少年が
父の腹を貪っている。
玄関の段差を
血がしたたり落ちる。
父はまだ生きていた。
少年に助けを求める。
同時に狼の少年が
じろりと少年を見た。
赤い目が光る。
少年は恐怖して
叫びながら逃げ出した。
父の助けを求める姿が
頭から離れない。
しかし少年は
恐怖の虜だった。
母に助けを求めて
何度も泣き叫んだ。
何故助けに
来てくれないのか。
すると
狼の少年がまた少年の前に
立ちはだかった。
腕を捕まえて引っ張り
顔をくっつく程に
寄せてくる。
「逃げたね?
父はまだ生きていたのに
助けを求めていたのに。」
少年は逆方向へ
逃げようとする。
だが
掴まれた腕で
引き戻される。
「なんで
母がいないのか?
君に
その価値がないから。
君はね僕と違って
愛される事のない
忌み子なのだよ。
仇を討つ?
アハハハハハ!
勝てないって分かってる癖に。
そうやって
意気込んで
怒り狂って
隠してるんでしょう?
怖くて怖くて怖くて
怖くて怖くて怖くて
怖くて怖くて怖くて
仕方ない癖に!」
少年は恐怖で叫ぶ。
「うあああああ!!」
気付くと
少年の頬には十字傷が浮かび上がり
髪は金髪に変わっていき
背は伸び、学生服に変わり
エイジの姿になっていた。
「うあああああ!!」
叫び声と共に
エイジは目を覚ました。
そこはエイジが寄宿する
寺院の離れの一室であった。
夜明け前で
全てが青白い。
窓の外から
朝日の白い光が
差し込んでくる。
寝汗を拭いつぶやく。
「フ〇ック!」
拳を布団に叩き込んだ。
九条に殴られた傷が痛み
エイジは顔を歪めた。
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