-機械仕掛けのイヴ-編 プロローグ 5

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-機械仕掛けのイヴ-編 プロローグ 5

(5) 緊急の事態も考えられるので 勝手に記憶データを探る事も考えたが、 先ほどリンゴが記憶データに ロックをかけたので入る事が出来ない。 ロック解除のコードは 以前は正が決めた物だったが、 今はリンゴが勝手に変えてしまっている。 生活から学習して蓄積した 記憶データを元に 自立思考システムが リンゴの性格を作り出している。 リンゴは通常の機械人間からは 逸脱したシステムを構築し始めていた。 自律性を獲得していて 正にも手が出せない部分がある。 会話でなんとか 記憶のデータにアクセスするように 仕向けてロックを 自分で外させるしかない。 正は会話を仕掛けた。 「学校じゃ弁当は 誰かと食ってるのか? 今日の卵焼きしょっぱくなかったか?」 「ん。別に大丈夫。一人で食べてる。」 リンゴは答えたが 端末を見ると 大して思考していない。 適当に受け流されているようだ。 「あれ? そういや明日 学校の校外学習じゃなかったっけ? 弁当いるの?」 正は先日冷蔵庫に貼っておいた 父兄へのお知らせを見に立った。 「あれ、ないな。 貼っておいたと思ったけどな。」 冷蔵庫の周りを うろうろしながら探していると、 リンゴが後ろから声を掛ける。 「いらない。明日は休む。 後で学校に連絡入れるから。 病欠かなんかで済ます。」 「えー。何でよ。行かないの?」 正はダイニングに戻ってきながら聞いた。 「行かない。行きたくない。」 リンゴはつっけんどんに答える。 正は仕方ないと言った表情を浮かべる。 「まあ、 無理していく事ないけどね。 でもどこ行くんだ? そういうの懐かしいなー。 旅のしおりとかないの?見してよ。」 リンゴは食事の手を止めて、 壁際においてあった学生鞄から 渋々しおりを出して正に渡す。 ずいぶんと読み込んだのか、 紙がよれている。 正は疑問に思ったが パラパラと開きながら 「あー、旧東京観音跡かあ、 学生の時は行くよなーあそこは。 ふむふむ、 班分けなんかも載ってるわけだ。 なつかしー。楽しそー。」 正はちらりと横目でリンゴを見ると 不機嫌そうなので しおりを閉じてテーブルに置く。 リンゴはもうしおりには手も触れず 食事を続けている。 正は寂しそうにリンゴに聞く。 「友達は、やっぱり作らないのか?」 リンゴが嫌う話題である。 学校では 他人との交流を避けている。 超常能力者がいる可能性や、 いないとしても 他人と交流して怪しまれるリスクを 高めるだけだと言うのである。 しかしそれは表向きである。 劣等感。 人間にあって自分にはない 夢、挫折、恋、不安、将来、希望、 無条件に体に宿る輝き。 生の輝きを目の当たりにし、 頭の中で明文化できない 何かが怯む。 そしてその本人の人間たちは 「生きるのが辛い、だるい」と言う。 疑似感情システムなのか 心の感情なのか、 劣等感に近い行動を リンゴに取らせている。 「いらない。 バカばっかりだし。 博士だっていないでしょ、友達。」
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