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-蟲どもは鈍色の夜に歌う-編 二話 細やかな日常を愛でる者。2
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そんな妙子の気持ちも知らず、
エイジは席に着くと早々に
鞄から大きめのヘッドホンを取り出し
ギターに繋いだ。
周りを尻目に窓の方へ向きかえり、
1人リズムを刻み、頭を振る。
「アォッ!」
「イェア!」
小声で呟きながらギターを
チャカチャカ弾いた。
当然まだホームルーム中である。
周りの生徒たちは机を
少しずつ動かしてエイジから
距離をとった。
エイジの席は
ちょっとした離れ小島の
様相を呈していた。
担任教師は
見て見ぬふりをして
ホームルームを続け
連絡事項を伝える。
近隣で殺人事件が起こっている為
暗くなってからの下校は
注意するように説明していた。
生徒たちが騒ぎ出す。
「また能力者じゃねーの?
あいつらマジ狂ってっし。」
「もう早く特高に来てもらおうよ。
通報しちゃおうか。」
「やめろよ。また他で密告する奴が出るぜ?
特高の奴ら無実でも関係ねえからな。」
「まったく。超能力者もロボットもまとめて
収容所に入れちまえばいいんだよ。」
生徒たちは銘々に騒いだ。
内心みな怖いのである。
エイジはそれを冷ややかな表情で聞いていた。
独裁が行われるこの国では
当然のごとく情報統制がされた。
ネット・通話・テレビ・新聞など
全てに検閲が入り反逆者の密告を奨励している。
東部のように
被災したダメージの大きい地域では
インフラの欠如から甘くはなっていたが
監視カメラや個人の持つ端末からの情報による
個人監視システムも稼働していた。
「蜘蛛の糸」と呼ばれるその監視システムは
ネットのビッグデータと連動し
国民の管理・採点を行った。
街には多くの軍人・警察が配備された。
市民を守る為ではなく
反乱分子を取り締まる為である。
人々は怯えながら暮らしていた。
また、荒廃した街の
灯の少ない闇は
息が止まったように深い。
不安定な社会情勢で
犯罪も多発していた。
その中でも兵力として使われ
終戦後に行き場を失った
超常能力者と機械人間は危険視され
国家管理以外は取締りの対象となっていた。
また彼らによって引き起こされる事件の奇異さから
大きく報道される事が多く
戦後社会の負の部分として忌み嫌われた。
そしてこの近辺では
先ほど担任教師が警告した様に
猟奇殺人が連続している。
遺体は必ず全裸にされ
無造作に路肩の草むらなどに
打ち捨てられていた。
朝になり主婦などが発見する。
遺体は皆あちらこちらが欠損し
内臓がすべて奪い取られた、
がらんどうの状態であった。
近隣の住人は
自警団などを結成したが
犯人はようとして見つからなかった。
一方、妙子にはそんな注意も耳に入らない。
どう話しかけるか、
どういうキャラで行けばうまくやれるのか。
キャラを演じる器用さなど
自分が持ち合わせていないのを
忘れてうんうんと考えていた。
ホームルームが終わる。
1時限目が始まるまでの少しの時間。
妙子は机に両手をついて
意を決して立ち上がる。
ツカツカと意気込んで
窓際のエイジの席へ向かった。
手は固く握られて汗をかいている。
エイジの背後に立つと
金髪が光っている。
手入れしているようで
つやつやとしていた。
少し香水をつけているのか
ハッカのような香りがする。
思い切って話しかける。
「い、いいい犬飼君!」
エイジはヘッドホンをしていて気づかない。
妙子は泣きそうになった。
それでもとにかく
アプローチしなければならない。
肩を叩こうと手を伸ばす。
思わずゴクリと唾をのんだ。
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