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翌朝、ザルベイルはソルブスに手当の礼を言って山を下りると告げた。
「そうかい、じゃあこいつを持って行きな」
「これは」
手渡されたのは一通の封書。
「そこに今回画策された職業騎士謀殺の証拠が入っている。使うかどうかはあんたに任せるがね」
「そんなものまで……どうしてここまでしてくれるんだ」
ザルベイルの疑問にソルブスは笑って答える。
「そりゃあ、昨晩の話を聞いてあんたが変わろうが変わるまいが、治安担当主任があんたから変わらないほうが俺に都合いいからに決まってんだろ」
「……そうか。じゃあこれの礼は言わなくてもいいな」
「はは、こいつは一本取られたな」
「だがまあ……昨晩の話には礼を言っておく。私にはひとの道というものがなにも見えていなかった。いや、敢えて見ないようにしていたのかもしれない。今回は酷い目にあったが、あなたに会えたのは幸運だった」
「そうかい。まあちっとでも響いたんなら俺の説教好きも無駄じゃあなかったってわけだ」
「そうだな。もし機会があったらまたなにか話を聞かせてくれ」
「おうおう、機会がありゃあな」
ザルベイルはソルブスに背を向けて、独り言のように呟く。
「……“山トネリコの亡霊”は、また盗みに入るだろうか」
ソルブスはその問いに鼻で笑って答える。
「はっ、さあな。だが街の治安が良くなりゃ衛兵の手も空く。お貴族様の屋敷の警備にもっと人員を割けるようになりゃ盗みに入り難くはなるんじゃねえのか。まあ、どの順番が一番良いのかはあんたが自分で考えるんだな」
「それもそうか」
その言葉を最後に、ザルベイルはすっきりとした表情で彼に教えられた通り道無き山道を下っていった。
その辺りには数えきれないほどの山トネリコの木が白い花を咲かせていた。
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