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「君は、誰?」
青年は、また質問を投げかけた。
何も音がしないのに、青年の声は響くことなく何処かへ落ちて言ってしまうように感じた。
「どこにでもいる黒猫だよ」
いきなりピタリと止まった黒猫は、青年の方を振り返る。
青年を見上げる真っ青で大きな瞳は、本当に空をそのまま落とし込んだようだった。
青年は、その青色は少しも恐怖は感じなかった。
「……、そっか」
青年がそう言うと黒猫はまた歩き始める。
なんとなくさっきよりも足取りが重く見えた気がした。
そういえば昔買っていた猫は、捨て猫だったような気がする。あの猫は、黒猫ではなくて白猫だったけれど。
瞳の色は、目の前を歩くこの黒猫と同じ青色だった。
「黒猫は、嫌い?」
やはり青年の心の中を見れるのか、黒猫はこちらに背を向けて歩きながらそう質問をしてきた。
「僕が一緒に暮らしていた猫は白猫だったけれど、毛の色なんて気にしてる人はいないよ。人間だって髪の毛はカラフルだしね」
青年は、もし今ここにいたのが白猫だったのならすぐに見失ってしまうような気がした。
ここに来たのが、この黒猫で良かった。
「そうだね。最近の人間はカラフルだね」
黒猫は、嬉しそうに言うと少しだけ歩くスピードを早める。
青年は、少しだけ顔を上げて道の先を見た。
道の先は目を凝らしても見えるようには思えないほど続いていた。この道に終わりは無いのだろうか。
ふと空を見ると、太陽がない。こんなにも、明るいのに。
「ここには、夜は来ないの?」
青年はここが本当に不思議なところだということに再度、恐怖を感じたため、直ぐに視線を戻し、目の前にまだその黒猫が歩いていることを確認した。
黒猫は、変わらずそこに居て軽やかな足取りで歩いていた。
「太陽がないなら来ないと思うな。夜は特別なものだしね」
「特別?」
「それに、夜になったら、君は酷く怖がるでしょう?ボクのことも見えにくくなる」
夜がどうして特別なのかは、少し気になるところではあったが、黒猫の言葉を聞いた青年は、その言葉に納得し安心した。
夜が来ないのなら、この黒猫を暗闇のせいで見失うことはないはずだ。
あの白猫は、夜でも黒猫よりは見やすくて見失いにくかった。
「……」
ふと青年は、自分の思考に違和感を覚えた。
青年は夜更かしをする方ではなかったし、夜は眠りが深い方だった。
では、何故あの白猫が夜の中にいる姿を覚えているのだろうか。
「どうかした?」
「え、あ……いや」
立ち止まった青年に黒猫は質問を投げかける。
「ほら、歩かないと。道の終わりにはつかないよ」
黒猫は、ふわりと尻尾を振りながら青年に言う。
黒猫は不吉だと、昔誰かが言っていた。立ち止まった青年を笑いながら見る黒猫は何やら怪しい生き物のように見えた。
「う……うん」
目の前に居る、小さく、可愛らしい姿をしたその猫に青年は少しの恐怖を感じた。
このまま呑気きにこの黒猫の後ろを歩いていて良いのだろうか。自分は何故、ここにいるのか。
記憶の中で、夜に走るあの白猫が見える。
白猫が走るのは、道路の上だ。室内で大事に飼っていたはずなのに、彼は夜の道路を走っていく。
「夜の道は、危ないよね」
黒猫がふと、そう言う。
小さな白猫が、道路の上を走る。あの小窓を開けっ放しにしたのは、誰だ?
青年は、サッと顔から血の気が引くのを感じた。
暑くて、あの日は、小窓を開けて寝たんだ。
あの小窓を開けっ放しにしたのは、
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