春の酔い

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「こないだ、なんで私を誘ったの?」  遠慮するのが馬鹿らしくなり、気になっていたことを訊ねてみた。  黒髪ストレートロングの女子は、合コンの場にもう一人いたのだ。しかも私よりがぜん美人。私が男だったら絶対に彼女を選ぶ。 「俺に興味なさそうだったから」 「意味がわからない」 「最初は、恋愛感情ない方が後腐れなくていいと思ってたんだけど、だんだんその気なさそうな子をオトすのが目的になってきちゃって」  うわあ、ヤなやつだな。私はビールの期待が外れたこともあり、ちょっと意地の悪い気分になっていた。 「ふうん。目的達成したのに、なんで泣いてたの?」  私が訊ねると、時任はあからさまに不機嫌な顔をした。 「そういうのは、普通、見なかった振りするものだろ」 「見たもんは見たし、普通じゃなくていい」 「人間泣きたい時くらいあるだろ。忖度しろよ」 「忖度? そんなに人は都合よく動かないよ」 「忖度は場に応じて適切に再構成する手段って、どっかの大学の先生が式辞で言ってた。相手に対する思いやりだよ、思いやり」
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