【第一章 秘石の秘密を握る少女、メメル】

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 一方、アージェが持っているのは、ただ「魔法を消す」という、生産性のない魔法技術にすぎない。だから生粋(ギフテッド)とはいえ、輝かしい未来を期待できるものではない。 「うーん、グライダー本戦の結果が出たら考えようかな、って思ってる」  それはアージェがメメルの試合の結果により自身の道を選ぶことを意味していた。 「あと半年もないのよ。メメルちゃんが勝てなければ、ここに残って孤児院の手伝いでもするつもり?」 「そのまさかだったら、何か悪いのか?」  メメルの挑戦に結果がついてこなければ、アージェはそうする腹づもりだった。なぜならアージェは自分がメメルにとって必要な存在だと信じているのだから。  けれどメメルにばかり気を取られるアージェに、セリアは釈然としない気持ちになる。子供たちはたくさんいるのに、どうしてメメルちゃんばかりを大切に扱うのか、と。 「わたしたちはだれの手助けもないのよ。自分で自分を成長させなくちゃ、未来なんて見えてこないの。わかってる?」 「でもさ、描いた未来が叶うかなんて何の保証もないだろ。それに――ひとたび戦争が起きればお先真っ暗だ。たとえば浮遊要塞の襲来とか、さ」 「そんな怖いこと言わないでよ!」  アージェが口にした『浮遊要塞』とは、ギムレットの魔力で空に浮かび、島を襲って金品や食糧を奪ってゆく武装集団の『城』である。彼らの本拠地は浮遊島ではなく、大陸のどこかに存在すると言われている。いくつもの島が彼らによって滅ぼされた。 「噂では、浮遊要塞の総帥は『クイーン・オブ・ギムレット』を捜しているらしいよ」 「ふん、そうなのか。――やっぱり見つかったらやばいよな」  アージェは意味ありげに呟く。 「えっ、その秘石のありか、何か知ってるの?」 「いや、別にそういう意味じゃ……」 「そりゃあそうよね。――でもどこにあるんだろうねぇ、その秘石っていうのは」  セリアはそう言いながら頬杖をついてアージェを見やる。  自分ではなく、メメルに優し気な視線を向ける、その端正な横顔を。
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