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「ソウルクラスターが生まれたのは戦争を起こした余の責任だ。だからあの暴走は余が食い止める。たとえ命に懸けてもな!」
ガルシアはそう言うと同時に空に飛び立ち、破壊された天井を抜けてゆく。直後、地響きが鳴り、城がずるずると傾いた。
「まずい、城が崩れる。脱出するぞ! 魔力を残しているのは誰だ!」
ラドラはそう言ってドンペルを担ぎ上げる。ヴェンダールまで連れて逃げる余裕はない。
「俺は、魔力はあるけど役に立たない! メメルの魔力でも全員は無理だ! セリアとリリコは!?」
「わたしはもう戦いで使い切っちゃった!」
「私は多少なら使えるけれど、全員を飛ばすのは無理!」
「まじか……」
皆が憔悴する中、柱の陰から声が上がる。
「ふふふ、ついに僕の出番が来たようだな。いいアイディアがあるんだ、任せてくれないか!」
それは激甚の戦闘の中、忘れかけられていた若者の声だった。
★
崩れた城壁から円形の物体が顔を覗かせる。赤と黄色のツートンカラーのそれは重力に抗い夜空に浮かび上がってゆく。その物体の下部にはバスケットが吊るされており、六人の人間が乗り込んでいた。
皆は熱気球で城からの脱出を図ったのだ。
「ブリリアン、もう少しよ、頑張って!」
「頑張っているぞぉぉぉ! セリアァァァ!」
アナスタシアが最後の魔力で熱気球を具現化させ、ブリリアンの炎を動力源にして城を脱出した。大聖堂の天井を抜けると同時に城は白煙を上げて崩れ落ちる。巻き込まれるところをぎりぎりのタイミングで回避できた。
「やった、脱出成功よ!」
「はぁ、はぁ、はぁ……どうだセリア、僕はセクシーだっただろう?」
「ほどほどにね」
城外の広場に着陸しアナスタシアが具現化を解く。見上げると夜空にガルシアとソウルクラスターの姿が浮かんでいた。
腐敗したソウルクラスターは闇に溶ける悪魔のような姿をしている。その目は空洞で、まるで慈悲の心など一片も持たないように見えた。
「ウジュ……ル……ガァ……グヴォ…………」
ソウルクラスターが体の一部を掴み取り街に向けて放つ。直撃を受けた建造物はまるで腐った肉片のようにぼろぼろと崩れ落ちていく。人々が悲鳴を上げながら逃げ惑う。ソウルクラスターは間違いなくアストラル島を破壊しようとしていた。
「悲しき魂よ、その怨念は余がもたらしたものだ。狙うならば余を狙え!」
ガルシアは民の盾となり、その矛先を己に向けさせる。突如、ソウルクラスターはガルシアに向けて襲いかかる。
「シャアァァァッ!」
「さあ、余が『帝』と呼ばれるゆえんを、とくとその身で受け止めるがよい!」
ガルシアは魔法を唱えて巨大な光の結界を展開した。その中に陣を張り、ソウルクラスターに向かって渾身の一撃を放つ。
――『聖光の恩恵!』
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