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電光石火で現れた稲妻はソウルクラスターを直撃し、ほとばしる魔力は周囲の森の木々をなぎ倒し地面を揺るがせた。しかしソウルクラスターはその雷撃にはじき飛ばされながらも、さらに勢いを増して帝に襲いかかる。
「ちっ、痛みなど微塵も感じていないか。まさに怨念の塊だな!」
だがガルシアの周囲には魔法の力がみなぎっていた。
――『多層限界魔法・四魔輪舞!』
炎と氷と岩と風が同時に空を舞う。
「ゴッパアアァァァ!!」
ソウルクラスターは腕を掲げて闇の中からもたらされる魔法を放った。かつて魔女が見せた、魂を喰らう魔力の蛇――刈縷魔だ。
ガルシアは炎の魔法を放ち、猛烈な火の渦でソウルクラスターの放つ蛇を包み込んだ。さらなる追撃がきたが、冷静に氷の魔法で捕らえて凍りつかせ、粉々に粉砕する。
「すげえ……これが『帝』の真の力か……」
アージェは魔力の強大さだけでなく、あらゆる属性の同時発現という未知の技術に圧倒された。皆、息を呑んで戦いの行方を見つめている。
城の崩壊の音を聞きつけて集まった人々が夜空を見上げて声を上げる。
「あれはシルベスター祭を喰らう悪魔に違いない!」
「ガルシア様が全力で悪魔と闘っていらっしゃる!」
「帝が悪魔から国と民を護ってくださっているぞ!」
ガルシアとソウルクラスターの激突は空間を歪め、森の樹木を燃えあがらせ、地面を凍てつかせた。けれど民衆は逃げることなく続々と集い、ガルシアに向けて声援を放つ。
「「「「「ミ・カ・ド! ミ・カ・ド!!」」」」」
激しさを増す戦いに突き動かされて声援はさらに盛大になる。街は壊滅の歌を奏でる光景と化してゆくが、民衆は勇気をもってガルシアを応援し続けた。ガルシアは声援に応えるように次々と魔法を連打する。
しかしソウルクラスターの勢いは弱まらない。秘石の魔力を得て具現化されているゆえ、魔法の力が通じにくい存在なのだ。
だが、その魔力も無尽蔵ではない。
戦いのさなか、ガルシアがアージェを視界に捉えて叫ぶ。
「アージェ青年よ! こいつに巣食う秘石の力は衰えつつある。余がこいつの動きを止める瞬間を狙い、魔力を消滅させよ!」
「はっ、はいっ!」
アージェは使命を受けてぶるりと身を震わせる。たしかにソウルクラスターから放たれる魔力は徐々に減弱している。しかしガルシアの魔力もまた、それ以上の速度で削れているのだ。
けれどこの戦略には致命的な難点があった。アージェの魔禁瘴では秘石の魔法を消すことができない。そのことを帝は知らないはず。
「どうすればソウルクラスターを消滅させることができるんだッ!」
困惑しているとアージェの脳に直接、言葉が響く。威厳に満ちた秘石の声だ。
『汝は己の力を信じさえすればよい。私は汝の想いを認め、力を与えると約束したのだから』
「メルス様!」
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