【最終章 また逢える日を夢見て】

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【最終章 また逢える日を夢見て】

 3年余りの月日が流れ、魔法学院は卒業式を迎えていた。中央ホールは大陸産のまばゆい花々で彩られ、式典にそぐう華やかさを演出している。  学院長であるガーベラが悠々と登壇する。並ぶ生徒の中にはセリア、ブリリアン、そしてアージェの姿もある。この記念の日には父兄の参列もあり、アージェとセリアのマザーであるミレニアも姿を見せていた。 『卒業証書授与。代表、アージェ・シェプター』 「はいっ!」  名前を呼ばれたアージェは明瞭な声で返事をする。  魔法戦争の終結後、アージェは功績を認められて魔法学院の生徒となった。もちろん、特待生の扱いだ。そして大陸の民であった(アーク)の姓を名乗ることにした。  ガーベラの挨拶は思いのほか長くなった。なぜならこの数年で魔法の世界における歴史的な変遷が起きていたからだ。  世界(アストラル)は魔法の力のほとんどを失った。奪われた秘石の片割れも、アージェの体内に移った秘石の力も、すべてもとに戻したはずだった。けれど秘石の消耗はきわめて甚大だったのだ。  今では生粋(ギフテッド)の能力は弱体化して実用性を失い、特技や曲芸としての価値しかなくなった。魔法学院の人気は薄れて規模は縮小され、魔法に代わる新たな技術を模索する研究施設としての活動が主体となった。  浮遊島は浮力を失ったせいで徐々に高度を下げ、約一年の時を経て海上に着水した。魔法学者の研究によると、島はすべて過去に存在した場所に着水したという。だからそのほとんどは大陸と地続きとなり水没の被害は皆無だった。皆、摩訶不思議な現象だと首をひねるばかりだったが、事情を知る者は秘石の意志によるものだろうと想像した。  大陸の民と人間の往来は盛んになった。大陸の民は魔法の力をほとんど失ったが、それでも平和な暮らしが何より価値のあることだった。  大陸の魔法使いであるアーク・シェプターが、そして大陸の少女ピピンが望んだ、魔力の消滅による和平への道。その願いは期せずして叶えられた。魔法鉱石の魔力に価値がなくなれば、誰もそれを奪う戦争など起こそうとは考えない。  卒業式の解散後、ドンペルがアージェとセリア、そしてブリリアンに声をかける。 「皆の者、忘れてはおらんよな。今夜の来賓は、おぬしたちが丁重におもてなしするように」 「あっ、はい。わたし、これからお色直ししてきます」 「別に俺らの間で堅苦しいことなんて必要ないと思うけど」  アージェは緩い表情で流したが、真面目なセリアはむっと頬を膨らませる。 「だーめ、アージェが気さくなのはいいけど、世間の目が許さないわよ。なにしろ相手が相手だし、記念撮影だってあるんだから」  すかさずブリリアンが横槍を入れる。 「ふふーん、その意識の違いは僕とおまえの育ちの違いってところかな」  ブリリアンはいつになってもアージェに負けん気満々だ。
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