37人が本棚に入れています
本棚に追加
同級生たちは思い出話を楽しみつつ、別れを惜しんで挨拶を交わす。皆、これからそれぞれの道を歩み出すのだ。
アージェたちは夜の訪れを待ち、バルコニー際の別室へと移動する。そこには豪奢な装飾が施されたテーブルが準備されていた。振る舞われる料理も特上のコースだと聞いている。これから特別な後夜祭が催されるのである。
「ドンペル先生、俺たちだけこんな扱いを受けちゃって悪いですよ」
「アージェ殿、けっしておぬしのためではない。来賓がアストラルの国王と女王なのだから、粗相があってはいけないからのう」
「あの大陸のおてんば娘も来るんですよね?」
「『喜んで参加してあげるから待ってろよアージェ!』という返事を伝書龍から受け取っておる」
「まったく、素直なんだかそうでないんだか……」
ため息をつくと同時に、夜風のささやきに翼のはためく音が混ざる。見ると一体の飛龍がこちらに向かって空を滑り降りてくるところだった。その背中に乗っているのはふたり。後ろに掴まっているひとりがこちらに向かって大きく手を振り叫ぶ。
「おーい、アージェー!」
「おー、ピピン! 久しぶりだなぁ!」
バルコニーに着地した飛龍から軽やかに降り立つピピン。アージェはその姿を見て目を丸くした。
当時は年下に見えたピピンだったが、今やすっかり女性らしくなっている。それもアージェよりも年上に見えるくらいだ。ピピンは自慢気にお色気ポーズを決めてみせる。
「もう子供じゃないでしょ? 圏外なんて言わせないわよ!」
「ごめん! ちゃんとレディー扱いさせていただきます!」
赤面してうろたえるアージェに冷たい視線が突き刺さる。遡ると視線の出どころはセリアだった。逃げるように背を向けたが、それでも背中が妙に痛い。
するとピピンの隣の男性――サシャがすっと一歩前に出る。目尻には新たな皺が刻み込まれていた。真剣な表情でアージェに釘を刺す。
「時間の流れの違いは抗うことのできない宿命だ。だから異種族間の情愛は常に悲嘆の涙を伴うもの。ピピンにはそんな苦い想いを味わってほしくなかった」
大陸の民の寿命は人間のそれよりもずっと短いのだと、アージェは魔法戦争の終結後に知ることになった。だからピピンの時間は自分を追い抜いてしまうと覚悟をしていた。
「そうなんだよなぁ……サシャがおっさんっぽいのも納得だよな」
アージェが白髪の混じったサシャの頭に視線を向けると飛龍が高らかに吠えた。その声はアージェの心に直接響く。
『サシャ様に向かっておっさんとは愚弄するにも程があるぞゴルァァァ!!』
最初のコメントを投稿しよう!