【最終章 また逢える日を夢見て】

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 飛龍エールはやはりアージェには厳しい。怒られたアージェはしゅんと反省の色を見せる。 「ごめん言い直します。おじさまでした……」 『それも違うだろお兄様だろうガアァァァ!!』  ピピンはふたりの関係性を見て昔と変わらない顔で笑う。 「同情なんていらないよ。時間は短くとも、あたしたちはあたしたちの生涯を謳歌してやる。後悔ないように濃く、分厚く生きてやる。だから――」  そしてサシャの顔を見上げる。サシャはこくりと首を縦に振る。 「アージェに言われた通り、ちゃんと素直になってサシャの求愛を受けることにしたんだ」 「まじか!」  最初は驚いたアージェだったが、その顔はじわじわとほころんだ。それがふたりのあるべき姿なのだとも思えた。  サシャは「ピピンが柔軟になった点についてはきみにお礼を言うべきだろう」と、照れながらも感謝の意を伝えてくれた。大切に思われているのに気づかず反骨心満々だったピピンだが、今やしおらしい妻になったという。  ふたりは飛龍をバルコニーで待機させ、窓から室内に飛び込んで着席する。そのタイミングで主賓のふたりが部屋に到着する。白銀の髪を結い上げた女性が先に姿を見せた。 「ごめん、もっと早く着くつもりだったけど、隣国との会議が長引いちゃって!」 「おお、リリコ! 久しぶりじゃん! 国政なんて性に合わなそうなこと、ちゃんとできているのか?」  三年ぶりに会ったアナスタシアは、さらに美貌に磨きがかかっている。それどころか女王としての威厳にも満ちており、漂うオーラが尋常ではない。 「アージェ君に心配されるまでもないわよ。有能な部下を揃えたし、何より『王様』が頼りになるから」  そう言って隣に並ぶ『王様』の屈強な腕に抱きつき、上目遣いで顔を見上げる。視線を向けられた『王様』は口を真一文字に結び、顔を紅潮させていた。  ドンペルはにやにやしながら『王様』の恥ずかしそうな表情を眺めて楽しむ。そしてかつては同僚だった戦友の名を口にした。 「お久しぶりじゃのう、ラドラ国王」  アストラルは帝による独裁ではなく、選挙君主制により国王を選出する道を選んだ。帝国から脱却し王国となったのだ。それには己の失敗を省みたガルシアの意向が反映されている。多くの貴族や軍の指揮官が国政に委員として参加し、国王もまた国政委員の選挙によって選出されることとなった。
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