【最終章 また逢える日を夢見て】

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「まさかラドラ先生が国政を引き継ぐなんて驚きましたよ」  王国への移行、国王の選出、そして王室の挙式は二年前にいっぺんに行われた。国王の立候補はアストラル全土に呼びかけられ、すべての民が注目する壮大なオーディションとなったのだ。 「私だって王婿(おうせい)――つまり『伴侶』が選挙によって決められるんだから、もう気が気じゃなかったわよ!」  アナスタシアの話によれば、国王の椅子と彼女を狙って壮絶な裏工作合戦が行われたらしい。候補者が候補者を潰し合う中、アナスタシアはひそかにみずから候補者を擁立しようとした。 「私は正統な王女だったのよ? 世界を救う英雄のような人じゃないと釣り合わないわよ。そんな適任者、アストラル全土広しと言えど、たったしかいないじゃない!」  顔を紅潮させて力説するアナスタシアだが、そこにはアージェへの怒りが込められている。アージェはアナスタシアに睨まれてぎくっとなった。  当時、アナスタシアから「国王の候補者になって」とお願いをされるとは青天の霹靂だった。いまだに断ったのを恨んでいるに違いない。 「だけどひとりは私ではない人を目に映しているしさ。そうなったら彼一択でしょ、それに彼には断る権利なんてないもの」  ラドラは口を真一文字に閉ざし天井を見上げていた。ラドラはアストラル島から逃げてきた王女をかくまった張本人であるが、そのラドラの人事権は学院長のガーベラが握っている。アナスタシアの手回しとはいえ、学院長からの命令をラドラは断れるはずもなかった。  国王の選考基準はアナスタシアがみずから決定した。「伴侶を選ぶんだから当然でしょう!」という強気の主張で。無論、審査項目にはラドラの得意分野がずらりと並んだ。 「まさか協調性皆無の俺が国を預かる立場になろうとは……」  いささか弱気なラドラの前に金髪の青年ブリリアンが腰を低くして飛び出す。 「いや、ラドラ国王なら適任でございます! 余人をもって代え難いとはまさにラドラ国王のことに違いありません!」  ブリリアンがラドラを揉み手擦り手で賞賛するのは、父の貿易商を継ぐことになったゆえの下心に違いない。部屋には冷ややかな空気が流れた。 「いやまぁ……しかも伴侶を持つことになるとは。それも相手がこんな世界一の女性とは……」 「それはのろけでございますか! 羨ましいことこのうえありません!」  けれどじつは立候補したが門前払いとなり、「候補者はアストラル全土でいたぞ!」とは言い出せない悲しきブリリアンであった。
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