【最終章 また逢える日を夢見て】

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「そう言えば『帝』の行方はわかったのか?」  着席したところでアージェが尋ねる。アナスタシアは困惑した表情を見せた。 「お父様は旅に出たっきり行方不明。今頃何しているのかなぁ……」 「片腕を失っているんだろ?」 「うん。魔法もたいして使えないはずだし、ほんとに大丈夫なのかなぁ」  ガルシアは国政をラドラに引き継いだ後、旅人に扮して大陸を渡り歩くことにしたという。大陸の民に対する贖罪なのだろうと察し誰もガルシアを止めなかった。 「生命再生の魔導書(アスト・ヴェルケロニック)も見つからなかったしな……」  アージェは胸のペンダントを握って残念そうにつぶやく。  戦いが終わった後、崩壊した城の撤去作業が行われたが、ヴェンダールの姿は見つからなかった。彼が持っていたはずの生命再生の魔導書(アスト・ヴェルケロニック)は魔法探知でも捉えることはできず、結局は行方知れずとなった。  けれどヴェンダールが生きていれば、どこかでガルシアと合流している可能性がある。だからガルシアの足取りが掴めればと、アージェは期待を捨てなかった。  ブリリアンが記憶を辿りながら言う。 「生命再生の魔法のやり方、僕は見ていたから覚えているんだけどさ。アージェには教えたよね?」 「ああ、ほんとに助かるよ。ありがとな」  魔法戦争の後、アージェが生命再生を望んでいると知ったブリリアンはきわめてアージェに協力的だった。その理由は、メメルとアージェがくっつけばセリアが自分のほうを振り向いてくれるはずムフフ……、と想像していたからだ。 「ただ、途中で割り込んで止めたから、最後の条件だけは聞けていなかったんだよね」  アージェはブリリアンに聞いた一節を思い出す。 『最後に術の詠唱者である汝に尋ねる。術の詠唱の契約にもとづき、汝は――』  それは生命再生の魔法を発動させるために、術の詠唱者にはなんらかの条件が課せられることを意味していた。  全員が席に着いたところでグラスにワインが注がれた。ドンペルが乾杯の音頭をとる。 「アストラルを救った英雄の皆様、今宵は思い出話と理想の未来の話で盛り上がりましょうぞ! 乾杯!」  新鮮な肉や海産物の料理が振舞われる。かつて島が空に浮いていた時、食材はきわめて貴重な資源だった。今では大陸での狩りや海での漁が日常となり食生活は豊かになった。皆は豪華な料理に舌鼓を打ちながら思い出話を繰り広げる。  セリアが隣のアージェにそれとなく尋ねる。 「ところでアージェは今度、ヴェルモア領にはいつ行くの?」 「春を報せる風が吹いたらまた行こうと思う」  冒険者の島であったヴェルモア島(陸地となった現在はヴェルモア領と呼ばれている)は、自然を生かした娯楽施設が建てられ有名な行楽地となった。
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