【最終章 また逢える日を夢見て】

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 アージェは多くを語らなかったが、毎年ヴェルモア領を訪れ、かつて訪れた古城に足を運んでいる。魔女とプリマの墓標に花を供え、散っていった船長や冒険者のために花弁を撒いてくるのだ。 「アージェは義理難いっていうか……亡くなった方でさえ無下にしないのよね。でも……」  セリアはナイフとフォークを握る手を止めて目を伏せる。 「……今を生きている人のことも、ちょっとは気にかけてほしいかな」  アージェも手を止めてセリアの横顔を見つめる。今までは素通りしていたそんなセリアの仕草を今日は見逃さなかった。フォークとナイフを皿の上に置き、すっと立ち上がる。  セリアがアージェを見上げて不思議そうな顔をすると、アージェはセリアに向かって手のひらを差し出した。セリアはアージェの真剣なまなざしに誘われるように手を取って腰を上げる。  皆、どうしたのかと思いふたりに視線を送る。アージェは反対の手で胸のペンダントをそっと握りしめる。  ――メメル、どうか聞いていてくれ。 ★  アージェは魔法戦争が終わった時、メメルと約束したことがあった。ふたりだけの秘密のやり取りだ。 『メルス様の魔法の力、だいぶ弱っちゃったみたい。だからあたし、アージェの前に姿を見せられるのも、これが最後だと思うんだ』  寂しそうな声でそう言うメメルは覚悟を決めているようだった。 『セリア姉ちゃんはアージェのことを心から大切に思っている。アージェだってとっくに気づいているはずだよね』  アージェは沈黙で肯定する。 『あたしは、ふたりがあたしに縛られて未来を失ってしまうのが嫌。あたしが幸せを奪ってしまうなんて、絶対に耐えられないの』 「メメル……でも俺は……」  するとメメルは人差し指をアージェの唇の前に立てて言葉を閉ざす。優しい瞳には強い意志が宿っている。 『アージェ、約束してほしい。セリア姉ちゃんをずっと大切にするって。あたしはきっと深い眠りに入っちゃうけど、ふたりのことを応援しているから。いい?』  アージェは一歩身を引き、目を閉ざす。しばらく逡巡した後、すっと目を見開いて答える。 「……わかった、約束する。ちゃんと守るから安心して」 『よかった……必ずだよ?』  諭すようにそう言ってメメルは宝石の中へと消えていった。その日を最後にして、メメルは二度と姿を現すことはなかった。  だからアージェは卒業したらセリアに伝えようと決心を固めていた。セリアの澄んだ瞳を見つめて、はっきりとこう言った。 「――俺の妻になってくれませんか」  セリアは驚き、時が止まったかのように固まった。集う一同もアージェの唐突なプロポーズにざわつく。  セリアは好意を寄せていた相手から求愛を受けて嬉しくないはずはない。けれど即座に返事をできるわけがなかった。メメルの悲しそうな顔が脳裏に浮かんだからだ。喉は呼吸の音しか出せないでいる。 「でっ……でも……」
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