【最終章 また逢える日を夢見て】

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 ヴェンダールの意図には不安しか湧かない。警戒心を緩めず一挙手一投足に神経を尖らせる。 「片腕を失われたガルシア様はこうおっしゃってくださった。『不自由なこの身にはおまえの助けが必要だ。ついてきてくれるか?』とな」  ドンペルが疑念を含んだ声で尋ねる。 「帝は大陸復興の旅に出たと聞いている。おまえはほんとうに大陸のために協力しているのか?」  ヴェンダールは鼻から息を吐き、さばさばと答える。 「私は自身の生き方をガルシア様に委ねている。そのご判断に私の意志や善悪など無関係だ」 「いたずらに無益な殺しなどしてはいないだろうな」 「まさか。私はガルシア様が必要としてくだされば、それ以上何かを求めるつもりなどない」 「それがおまえの本心なのか?」 「当然だ。しいて言えば、貴様らがもたらしたこの数奇な僥倖に私は心から感謝しているくらいだ」  思えばヴェンダールが多くの命を奪った動機は悪意ではない。帝のために目的を果たそうとする彼の正義が暴走した結果なのだ。  ヴェンダールは子供のような無邪気な笑みを浮かべ、ゆったりとバルコニーに降り立つ。タキシードの胸元に手を差し入れた。  取り出したものを見て皆、騒然となった。  なぜならそれはアージェが探し求めていたもの――生命再生の魔導書(アスト・ヴェルケロニック)だったからだ。それも拍動するかのように光を点滅させている。 「秘石の魔力が充填され、発動可能な状態のまま保存しておいた。感謝の証としてこれを貴様らにやろう」 「まじか!」    アージェが我を忘れてバルコニーに足を踏み出すと、ヴェンダールは魔導書をすばやく背後に隠した。 「おっと、貴様にやるつもりはない」 「なんでだ!」 「私自身が認めた相手でなければ、渡すつもりなど毛頭ないからさ」    ヴェンダールの視線はセリアに向けられる。指先でこっちに来いと指図した。 「セリア、あいつは何するかわからない。気をつけて」 「大丈夫、殺気を感じないから」  セリアは警戒しつつバルコニーに踏み出す。一歩一歩、ヴェンダールとの距離を縮めてゆく。間合いに入るとヴェンダールは何の未練もなくその本を差し出しセリアに手渡した。 「もはやガルシア様にとっては必要のないものだ。かねがね『渡してやってくれ』と言われていたのでな」  アージェたちが城に攻め入った目的は、秘石の奪還だけではなく、生命再生の魔導書(アスト・ヴェルケロニック)を奪い取ることでもあった。魔法戦争の後、アナスタシアはそのことをガルシアに伝えていた。だからヴェンダールはガルシアの命令によりそれを届けに来たにすぎなかった。 「卒業の餞別としては最高だろう?」  するとブリリアンが一番遠い部屋の隅から叫ぶ。 「ちょっと待て! 術の詠唱者の条件っていうのを教えてくれないか!」
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