【エピローグ~ふたりが紡ぐ永遠の物語~】

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 ふたりは図書館に隣接する公園の屋台でレモネードを注文し、並んでテラスで喉を潤す。冷たい刺激が乾いた喉に心地よい。こくんと飲み込むと刺激が喉から胃の中へと伝わってゆくのを感じる。もちろん、心臓の鼓動が速いままなのも。  ヨハンは意を決して切り出した。とはいっても、おそるおそる探りを入れるところからだ。 「ニーナに聞きたいことがあるんだけど」 「んー……なぁに?」 「ニーナってさぁ、誰か好きな人っているの?」  もちろん、「いないよ」という無味無臭の答えを予想していた。あわよくば「いるけれど教えないよ」なんて茶化されて、それが自分を指しているという展開も期待していた。けれどニーナは困惑した表情を浮かべた。ヨハンは予想外の反応に不安を感じる。 「誰か、気になる相手が、いるとか……?」  ヨハンは怯えながらそろりと尋ねる。 「ううん。そういうわけじゃないんだけど……あたし、きっと誰も好きになれないと思う」  ニーナはずっと遠くの麦畑に視線を向けてそう答えた。 ★  ニーナは幼い頃、重い病気を患ったことがあった。いや、黒薔薇の棘に毒されたのだから呪いと言うほうが正しいだろう。  ニーナの両親はさまざまな医者に診療をお願いしたが、意識が戻らないまま弱っていく一方だった。打開策はなく、皆、手遅れだと口を揃えて告げただけだ。  死の危機に瀕し、両親は藁にもすがる思いで高名な魔法博士の元を訪れた。それがセリアばあちゃんだった。けれどばあちゃんは悪性の病気を患っており、無理できるような状態ではなかった。ところがばあちゃんは最後の力を振り絞りニーナを元気にさせてみせた。奇跡的な復活劇だった。  だけどその無理がたたってばあちゃんは倒れ、その場で息を引き取ってしまった。葬儀では皆、ばあちゃんをシェプター家の誇りだと讃えていた。  ところがその治療は、けっしてうまくいったわけではなかった。ニーナの体には異変が起きていたのだ。  目覚めた時には記憶がすっかり失われていた。両親は記憶の回復を期待していたが、記憶は回復せず、新たに異常な変化が現れた。シルバーの艶めいた髪は色が変化し、すらっとした顔の輪郭も徐々に丸みを帯びてきたのだ。  ニーナの両親は「どうにかしてくれ」と、ニーナを連れてたびたび足を運んできた。ヨハンの父は魔法博士ではないし、そう言われてもしどろもどろするばかりだった。  両親は変わりゆくニーナの姿に不安を覚え、それはいつしか嫌悪感に変わってゆく。しまいには呪いをかけられたのだと亡きセリアばあちゃんを貶めた。  結局、ニーナをシェプター家が支援しているポンヌ孤児院に引き取らせることで責任を取らせようとした。  そんなニーナ自身を否定する過去のトラウマが、他人への好意をためらわせているのだろうとヨハンは察した。
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