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胸が苦しくなり、書斎の空気の重さに押しつぶされそうになる。
もしもセリアばあちゃんがメメルの生命再生を実行していたのなら、この世界にヨハンは実在していないのだ。ヨハンがこの世界に生きている、それはメメルの命の代償でもあった。
その事実はヨハンにとってあまりにも重いものだ。
だが、セリアばあちゃんの告白にはその先があった。
『けれど、わたしもあなたと同じように、メメルちゃんを大切に思っていた人間のひとりです。ですからわたしは必ずあなたとの約束を守ろうと思い続けていました。たとえメメルちゃんが記憶を失い、あなたの想いが報われなかったとしても』
震える手でページをめくる。目を血走らせて文字を読み進める。
『今、わたしの目の前にはひとりの女の子が横たわっています。黒薔薇の棘により魂を壊され、意識が戻ることのない子です。わたしはこれが唯一の機会だと悟りました。この時を逃したら、メメルちゃんを甦らせる機会は二度となくなってしまいます』
――まさか! そんなまさかッ!
『神に背く行為とも言える生命再生の魔法。それを唱えたわたしが、天国から世界を見守れるかどうかは定かではありません。ですからどうかアージェは生まれ変わるメメルちゃんを、そっと見守ってあげてください』
読み終えたヨハンは雷に打たれたような衝撃を受けた。もしもこの話がほんとうのことなら、メメルというのは――。
本はまだ半分の厚みを残していたが、一枚の絵で終止符が打たれていた。その絵には三人の若者の姿が描かれている。
左側に描かれているのは、颯爽とした雰囲気の明るい青年。自分にすごく似ていると思った。きっとアージェじいちゃんだ。
右側に描かれているのは、長い髪の上品そうな女性。若い頃のセリアばあちゃんに違いない。
最後のひとりは、そのふたりに挟まれている、ふわくしゅの髪で屈託のない笑顔を浮かべる女の子。ヨハンはその姿に驚きを隠せなかった。
その子はニーナそのものだった。
感覚を失うほどに痺れた手で本をまさぐる。すると本は裏表紙から開くことのできるシークレットボックスになっていた。そこには丁寧に白布で包まれた何かが入っていた。
開けると出てきたのは綺麗なネックレスだった。淡青色に光る宝石がはめられている。それはまさに、ばあちゃんの物語に登場する『メメルの魂を宿す秘石』のイメージそのものだった。けれど、そこに拍動する『種』はない。
――なんてことだ! ばあちゃんの物語は空想なんかじゃなかったんだ!
ヨハンはペンダントを掴みとり、夢中でポンヌ孤児院へ駆けてゆく。満ちた月はとうに西の地平線に向かって傾いていた。
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